「そういえば、お前は見かけによらず甘いものが好きなんだな」

 食堂の限定マンゴープリンはもちろん、それ以外にもチョコレートムースだのチーズケーキだの週のうち半分以上はデザートを欠かさないのを思い出してイザークは言った。

「見かけによらずって・・・なんか酷くない?」

 気を悪くしたわけでもなくディアッカは苦笑する。イザークの言いたいことはだいたい分かる。いかにも遊び鳴らした風の自分の外見からしたら、プリンを喜んで頬張る様は似つかわしくないのだろうから。

「すまない、悪気はないんだ」

 殊勝に謝る友人にディアッカの笑いは朗らかなものになる。そこでウエイトレスを呼び止めるとイザークと自分の注文を告げた。結局ディアッカはケーキセットとカプチーノを選んでいた。

「この顔でケーキセットてのが似合わないのはわかってるけどさ。まぁオレが甘いもの好きなのにはそれなりに理由があるしね」
「理由?」

 不思議そうなイザークの顔にディアッカは楽しそうに笑う。イザーク・ジュールのこんな顔を見られるのは友人として役得というやつだろう。

「ほら、オレって母親いないし、家の中での扱いって微妙だったじゃん」

 この学校に来るまでのディアッカの生活態度とその生い立ちはイザークも知っていた。コーディネイトの失敗作として父親は息子を受け入れず、その関係は冷え切っているらしい。

「それがどうして甘いもの好きになる?」

 普通なら避けてしまうような話題にも遠慮をせずに聞いてくるイザークにディアッカはやはり好感を抱く。彼が自分を友人として認めたときから、全てを受け入れてくるつもりなのだろうことはわかっていたけれど、こうして改めて知るイザークの誠意はとても心地がいい。

「だから小さい頃はよく祖父母の家に預けられてたんだ。つまり地球だけど。そこでいつも祖母ちゃんが甘いものを作ってくれてさ」

 お袋の味ではないけれど、肌の色を気にせず純粋に可愛がってくれた祖父母の思い出とともにケーキやクッキーはディアッカにとっては懐かしく、心が落ち着く特別な食べ物なのだという。

「だからこれだけは似合わないって言われても我慢できないわけ」
「別に似合わないからって好きなものを我慢する必要はないだろう」

 まじめな顔で言われてディアッカは「もちろん」と答える。そこへ飲み物が運ばれてきて熱いカプチーノを口にした。

「一番好きなのはなんだ?」
 
 猫舌のイザークがカフェオレと格闘しながらようやく飲めるようになったころそんなことを聞いてきた。ディアッカの前には4種類のミニケーキが並んだ皿が置かれている。

「ケーキで?」
「まぁそうだな」
「うーん、クリームブリュレかな」
「あのカラメルが焦げてるやつか」

 一通りの菓子くらいはイザークだって知っている。特別に甘いものが好きなわけじゃないけれど、ティータイムの習慣があれば自然とそういうものを食べる機会も増えるというものだ。ましてやジュール家にはコックもいるのだ。

「意外だな」
「そう?」
「もっとクリームが多い子供向けのケーキがすきなのかと思ったぞ」

 エピソードからすればそう思うのも当然だろう。

「まぁね。でもオレってませてたからさ。最初は苦いし熱いのに次に甘くて冷たいっていうあのギャップに嵌っちゃって。ただのプディングより断然好きだぜ」
「お前らしい話だ」

「ところで車が来たらあれで通うのか?」
「校則で禁止されてたっけ?」

 当然そのつもりでいたディアッカはイザークに聞かれて初めてその問題に気がついた。以前のディアッカならば「校則は破るためにある」などと言って表立ってバレない程度の校則破りをしたのだろうが、今ではそんな気持ちは毛頭ない。この学校を卒業するつもりだったし、それがイザークとの約束でもあるからだ。

「さぁな。そもそもエレカ通学を想定しているかどうか怪しいもんだ」

 イザークの言葉は尤もだった。あの学校では送り迎えは当然でも生徒本人の運転なんて考えられないだろう。

「もし校則になくて禁止されそうになったらイザークが擁護してよ」
「なんで俺が」
「だってイザークの送迎担当だろ、オレ?」

 派手にウインクをしたディアッカにしばらく考えてからイザークは言った。

「なら次の試験は10位以内だな」
「えー、何でだよ」
「俺のドライバーの条件だ」

 不敵にわらうイザークにディアッカはもちろん文句は言わない。なぜなら彼とともに卒業までを過ごすことが自分がいまここにいる理由の一つでもあるからだった。
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