◆◆◆


 うわぁ、かわいいおんなのこ。
 父親に連れてこられた他人の家のある部屋で、ディアッカの目に飛び込んできたのは、ソファの上でちょこんと座って絵本を読んでいる女の子だった。
 自分の手を引いた父親はこの家の主人らしい女性と何やら話しているが、そんなことはディアッカにはまだ理解できない。それよりも目に入ってきたその少女に釘付けだった。 少女は黒髪を長く下ろして、上側だけを二つに結って淡いブルーのリボンをつけていた。
 他にも子供は数人いたが、ディアッカはその子のことしか目に入っていない。
 おじいちゃんの家でみた『にほんにんぎょう』みたいだ。でも、目はあおいんだぁ。にほんにんぎょうはかみの毛とおなじいろだったけどな。にんぎょうじゃないんだ。
 じっと見つめているとその少女は視線に気づいてか、ぷいっと横を向いてしまった。
 おこっちゃったのかな。
 ディアッカがそう思っていると、頭の上から父親の声がする。
「ディアッカ、ここで子供同士で遊んでなさい、いいね」
 言われてディアッカが頷くと、父親は部屋の外に出てドアが閉められた。
 そのままディアッカはソファに近づいていく。
「ねぇ」
 ソファに上がりながら、ディアッカは少女に話しかける。
「何よんでるの?」
 けれど少女はそれには答えなかった。ソファの座面に両手を付いてディアッカは少女の手元を覗き込む。
「字がたくさんある本だ! すごいね」
 感嘆の声を上げるディアッカにイザークはちらりと視線を向けるとその顔をまぢまぢと見つめた。その肌の色は見たこともない色だった。でもその金色の髪はきらきらしていたとってもきれいだとイザークは思った。
 ふわふわしてる。僕のとちがう、・・・きもちよさそう。
 そしてイザークはディアッカの頭に手を伸ばした。
 わしゃ、と突然にその髪を掴んだイザークは手触りの気持ちよさにびっくりしてしまった。
 やわらかい・・・。
 けれど突然そんなことをされたディアッカの方はもっとびっくりしていた。いきなり頭を掴まれたのだ。
「わ、何するんだよ!」
 イザークの腕を払うと体を強く押した。いきおいイザークの体はソファの背もたれに沈み込む。すると少女の顔は不機嫌になり、ディアッカを睨みつけるようにしたあとで、まるでディアッカを無視するようにさっきまで読んでいた絵本を再び広げた。
 一方のディアッカはといえば、女の子を突き飛ばしてしまってまずいことをしたと思っていた。いつもおじいちゃんに女の子には優しくするように、と言われていたのを思い出したのだ。気まずくなってソファから降りると床で遊んでいた別の男の子のところに歩み寄る。女の子にどうしたらいいのかなんてわからなかったから、一緒に遊ぶなら男の子がいいや、と思ったのだ。床に座り込んで、ロボットの犬と遊んでいる年下の子供の隣に座った。
「ぼく、ディアッカ。なまえは?」
「あしゅらん」
「アシュラン? いっしょにあそぼうぜ!」
 そう言うとおもちゃの入った箱からロボットを取り出すとがちゃがちゃといじり始める。一緒に遊んでくれる人ができて、アスランはご機嫌でロボットを上下に動かしている。
「わあ、じあかぁ、しゅごぃ」
「へへー、おれはつよいんだぞぉ」
 そうして二人は楽しそうに遊び始めた。いつのまにかその部屋は人形で遊んでいる女の子、おもちゃのピアノのキーをがちゃがちゃと叩いている子供、小型の車に乗っている子とあちこちでにぎやかな部屋になっていた。




⇒NEXT