その部屋は、見事なまでに子供用に仕立て上げられていた。フカフカの素材でできた衝撃吸収の床、角のあるものは全て排除された優しい雰囲気の家具、子供サイズのソファ、そしてパステルカラーに包まれた壁紙とカーテン。まるでおとぎの国にあるお城のようなつくりにレノアは感嘆の声を上げる。
「まぁ、素敵」
「でしょう?いつもイザーク一人しか使わないから、にぎやかな今日はいつにも増して華やかだわ」
部屋の中にはすでに数人の子供たちが遊んでいた。それを見るためにメイドが二人部屋の隅に控えている。
「おや、あの黒髪の女の子は?」
見たこともない容貌は今日来る大人の誰にも似ていない。低めのソファで一人絵本を読んでいる女の子を指してパトリックが言った。
「あぁ、あれがうちのイザークよ」
「あの子が? 確か、君のところは男の子だと思ったんだが、私の勘違いかい」
その言葉にエザリアが笑いながら答える。
「いいえ、貴方は間違いではないわ、イザークは男の子よ。あまりにもかわいくて私が女の子の格好をさせているの。子供なんてすぐに大きくなってしまうでしょ? かわいいのは今のうちだから」
「あなたの息子は黒髪だったかしら?」
レノアが疑問をそのまま口にする。
「いえ、あれは染めているの。あまりに私に似せすぎたから、色々と危険が心配で」
そういうエザリアの顔はいつものやり手な評議員の顔ではなく、一人の母親のそれだった。
「たしかにそうね。でもスカートまで履かせることないんじゃない?」
レノアの追求にエザリアはそれもそうね、と言いながら茶目っ気たっぷりに笑った。
「でもカモフラージュになるし、何よりかわいいんですもの。今度アスランにもさせてみたらどうかしら? きっとかわいいわよ」
「アスランに? でもそれは必要ないと思うわ。私、来月から研究で月に行くのよ、アスランを連れてね。あそこならプラントよりも危険が少ないから伸び伸び育てられると思って」
この人は忙しいからいてもいなくても同じようなものだし、とレノアが言うとエザリアも頷く。
「それならその方がいいかもしれないわね。でもそうなるとイザークのお友達になるのは無理かしら」
残念そうに言うエザリアの足元をアスランがてけてけと歩いていく。
「まま、いてらしゃい」
床に転がっていたおもちゃを手にするとレノアを振り返ってアスランは舌足らずな口調で言った。
「まぁ、本当にお利口なのね。うちのイザークなんてこの部屋においていかれるって知ったら駄々こねて大変だったんだから」
「じゃあ、アスラン、いい子にしてるのよ」
レノアが言うとアスランはこくん、と頷いた。それを見届けるとザラ夫妻とエザリアはその部屋のドアを閉めて会場である別館に向かった。
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