「アスランっ!」
玄関のインターフォンがなると同時に恋人が飛び込んできた。
その姿にアスランはびっくりする。
軍服姿なのは仕事帰りなのだから当然だとして、視線が釘付けになったのはその白い軍服で抱えている巨大な花束。
真っ白なバラが数十本イザークの両腕いっぱいに抱えられていた。
「おかえり・・・・・・すごいね、それ」
唖然としつつアスランが指摘するとその存在を思い出したようにイザークはそれをアスランに差し出した。
「誕生日だろ」
バサッと腕の中にホワイトローズのブーケを受け止めながらアスランは笑ってしまう。
「ありがとう・・・でも、なんでバラの花束なんだい?」
「ディアッカに聞いたら、誕生日プレゼントならバラの花束だって言うから」
閉店ぎりぎりの店に駆け込んで買い占めたのだという。それにやっぱりアスランは笑ってしまった。そのときのイザークの様子が目に見えるようだ。
「そうなんだ・・・でもそれ・・・相手が男だって言ってないよね?」
「え、いや、それは・・・まずかったか」
たぶん、いや絶対にディアッカはイザークが誰のためにプレゼントを買おうとしているのかなんて判っていたはずだ。それなのに花束なんていうのはたぶん遠まわしなアスランへの嫌がらせなのだろう。イザークを激しく抱きすぎると翌日は仕事に支障が出てるらしいから。
「そんなことない、嬉しいよ。白バラなんてイザークみたいだから」
「は、花みたいなんて言われても嬉しくなんかない」
にっこりとアスランが笑うとイザークの頬に朱が走る。本当にイザークは判り易くてかわいいと思わずにはいられない。
バサバサッ。
突然床に投げ出された花束に驚いて、ブーツを脱ぎかけていたイザークが顔を上げるとその体はアスランに思い切り抱きしめられた。
「ア、アスランっ?!」
慌てるイザークの体をギュウッとアスランが抱きしめる。
「大好きだよ」
耳元で囁く声にイザークの頬はさらに染まる。
「せっかくの花が・・・っ」
「後でちゃんと活けるから」
イザークの軍服はハイネックの襟が開きかけていた。きっとずっと走ってきて暑くなったから開けたんだろう。
軍服の上着は腿のあたりにシミができていた。ブーケは水受けもそこそこにラッピングも大慌てで作ったような出来だった。イザークが少しでも早く帰るのに店員を急かしたに違いない。そこから落ちた水滴が上着を濡らしたのだろう。
自分のためにどんなにか急いできたのだろう。それを思うととにかく抱きしめたかったのだ。
「オイ、アスラン・・・」
いつまでも自分を放しそうもない同居人に漸くイザークが口を開いた。
「何?」
ぐっと額をイザークの軍服に押し付けたまま動こうとしないアスランは声だけで答える。
「その・・・祝いの言葉を言ってないんだが・・・」
「あぁ、うん」
言って顔を上げたアスランの目が赤くにじんでいるのにイザークは気がついた。
「なっ・・・なんで泣いてるっ」
驚いて責めるような口調になったイザークにアスランは小さく苦笑する。
「あぁ違うよ。イザークがいるのが嬉しくて・・・」
一人ぼっちじゃないこと。
自分のことに一所懸命になってくれる人がいること。
自分の一番好きな人が自分を一番好きでいてくれること。
その全てが嬉しかった。
「ったく。誕生日ごとに泣かれるんじゃこれから先が思いやられるな。毎年俺は泣かれるのか」
「イザーク・・・」
これから先もずっと。
ずっとずっと一緒にいること。
それを当たり前のこととして笑っているイザークがやっぱり愛しいと思える。
「アスランが生まれてきてくれたことに俺は感謝している・・・・・・誕生日おめでとう」
触れた唇は優しく温かい。
零れそうになる涙を必死で堪えながらアスランは笑顔を作った。
「ありがとう」
そしてやっぱりアスランはイザークを抱きしめる。
甘えるように。守るように。
心から君を抱きしめたいから―――。
HappyBirthday Athrun!!
2006/11/06
白バラの花言葉
「私はあなたにふさわしい、尊敬」
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