「ほら」
「うわーすごい!」
ディアッカの手のひらに置かれたものをみてニコルが素直に感嘆の声を上げた。
アカデミーのラウンジ。
ニコルの母親からの差し入れであるフルーツをみんなで分け合って食べているところに、ラスティが言い出したのがきっかけだった。
「なぁ、さくらんぼの茎って結べる?」
そんなこと聞いたこともないというニコルを尻目に、得意顔でフルーツの盛り合わせの中から朱色に輝く小さな果実を取り出すとディアッカはそれを口に放り込んだ。そして、しばらくしてから勿体つけて口の中から手のひらに出したものは、きれいに結び目のできた桜桃の房だったのだ。
「さっすがディアッカ〜。初めてできたのっていつ?」
余計な興味を示しながらラスティが尋ねる。
「いつだったかなー、5,6歳のときにはできてた気がするけど」
それを聞いてラスティは違う意味で「すっげー」と声を上げて、自分も挑戦しようとディアッカを真似てさくらんぼの房だけを口に含んだ。
「ディアッカって、器用そうですけど、口の中まで器用なんですね」
にっこりとニコルが笑って、意味深にディアッカはうなずいた。
「まぁね」
「あ、アスラン、アスランはできますか?」
遅れてその場に現れたアスランにニコルが声をかける。みんなのいるソファに座りながらアスランは「何を?」と今日の話題を確かめた。
「さくらんぼの房を結べるか、ってやってるんです。ディアッカは上手なんですよ」
皿の上に置かれた小さな結び目を指してニコルはアスランの顔を覗きこんだ。
「どうかな、やったことなんてないけど」
いいながらニコルからさくらんぼを渡されて、しげしげとその茎を眺めている。その横でラスティが根を上げて噛み切られた茎を吐き出した。
「うへー、全然無理っ。顎がすっげー疲れるよ。ディアッカ、お前ってほんとそういうこと上手いんだな」
向かいに座っているディアッカを褒めて、それからまだにこるに渡された桜桃を手にしているアスランを向いた。
「やってみろよ、アスラン。結構難しいよ」
ラスティに促されてアスランはそれを口に入れる。
「うあぁ、本当だ。顎が痛いです」
言いながらニコルは辛うじて結び目になった茎を手のひらに吐き出した。
「え、ニコルもできたわけ?」
自分だけできないのに慌ててラスティはもう一度さくらんぼを手にとって口に放り込む。
「そうだ、イザーク、お前はできんの?」
一人離れてソファに座って本を読んでいるイザークに、ディアッカが声をかけた。
「下らん! 食べ物で遊ぶなど、品がないぞ、貴様ら」
わいわいとみんなで遊んでいるのを一刀両断にしたイザークだったが、そこへアスランが得意になるわけでもなくいつものように淡々と声を出した。
「これで、いいのか?」
口元に手を添えてその中に口の中のものをそっと出す。そして覗き込もうとするみんなへ披露するように手の平を広げて見せた。
「すごい! アスラン本当に初めてなんですか?」
ニコルが感激して声を上げると、ラスティもそれに同調する。ディアッカもその出来を見て、感嘆した。
「お前って何でもできすぎじゃねぇ? 俺より上手いじゃん」
それらに適当に答えながらアスランは話題から一人取り残されているイザークへ水を向けた。
「イザークは? 初めての俺ができたんだからもちろんできるだろう?」
にっこりと笑いながらアスランはイザークへ桜桃を差し出す。それをむっとした顔で睨みつけるようにして受け取りながら、半ばやけくそでイザークは口の中に茎だけを放り込んだ。
だが。
15分経ってもイザークは結ぶことができず、皿の上には失敗した茎が山積みになる。それを見てアスランは楽しそうにイザークへ笑った。
「何だ、イザークって意外と不器用なんだね」
それに当然憤慨したイザークは、その後さくらんぼを独り占めにし、山のような失敗を繰り返すことになった。
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