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「イザーク?」

 部屋のドアを開けて入ってきたのは真新しい緑色の軍服を着たディアッカだった。
 
「何だ、何か用か?」

 正式に発足するのは3日後ではあるが、すでにジュール隊に割り当てられた建物の一室で、そこは隊長執務室になる部屋だ。

「お、それ着ると『隊長』って感じだな」

 白い軍服を身につけたイザークを見てディアッカは言う。

「ふっ、貴様はペーペーって感じだがな」

 降格されて一般兵士の身分となったディアッカに向けてイザークはそんなことをいってシニカルに笑ってみせる。

「まぁね。これはこれで丈が短くて動きやすいんじゃないの?」

 肩をすくめてみせてディアッカは邪気がない。降格になった処分についても、もともと除隊も覚悟していたことだ、と気にしてはいないようだった。

「用は何だ、覗き見するほど暇なのか?」

 イザークが言うとディアッカは用事を思い出したらしい、ポケットから何かを取り出しながら告げた。

「記念写真撮ろうぜ。イザークの昇進記念とオレの降格記念」

 手にしたカメラを掲げてディアッカはイザークに向けて構えてみせる。

「そんなもの必要ないだろうが」

 イザークが言うとディアッカはそれを予想していたかのように、説得のための理由を持ち出した。

「エザリア小母さんに白服姿見せてやれよ。しばらくは忙しくて帰れないんだから写真くらい送っておけって」

 そういわれてイザークはどうやら納得したようだった。今は政治の世界から身を引いて隠匿の身となっているエザリアはきっとイザークが昇進したことを知れば喜ぶだろう。ZAFTに配属になったときの赤服の写真を大事に飾っていたくらいなのだから。

「ほら、そんな固い顔するなって。IDカードの写真じゃないんだから」

 書類棚を背に立っているイザークに向かってディアッカはあれこれと注文をつける。

「もっと笑えって」

 言われてイザークは笑おうとするが、上手く行かないで引きつった顔になる。

「そんな都合よく笑えるか!」

 感情の起伏は激しいが、愛想笑いなんてしたことのないイザークは面白くもないのに笑えるわけなかった。

「そーいえば、アイツより先に『白』着ることになったな」

 ふいにディアッカが言ってイザークはハッとした顔になる。
 今はプラントにいない、アカデミー時代からの藍色の髪のライバル。

「アイツの最終在籍記録は特務隊だ」

 たとえ、今はその記録が抹消されているとしても、確かに彼はフェイスに任命されたのだ。

「それに、アイツは俺たちの隊長だったろうが」

 一時的に仮とはいえ作られた部隊、ザラ隊。あのとき隊長に任命されたのが自分じゃなかったことにイザークはあからさまな怒りをしめしたほどに悔しがった。

「あぁ、最初の任務が『隊長の捜索』だった?」

 ディアッカは揶揄するように言って、イザークもそれにつられてふっと笑う。
 その一瞬をディアッカは見逃さずパシャリ、とシャッターが押された。

「アスランに関することで笑うんだな、イザーク」

 からかうようにディアッカが言うとイザークは真っ赤な顔をして怒りだす。

「うるさい!貴様も笑っただろうが」

 そんなイザークをかわしながらディアッカはカメラを持ってイザークの隣に並んだ。そして自分たちに向けてカメラをかざしてシャッターを押す。

「はい、記念撮影完了」

 そしてディアッカは足早に隊長の執務室を出て行く。

「あとでメールで送るから、ちゃんとエザリア小母さんに送れよ」

 ドアの向こうに消えたディアッカの背中にため息をつきながらイザークはどっかりとイスに座った。




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