「なん・・・で、貴様が・・・」
「ディアッカが連絡をくれたんだ。きっとイザークは黙ったままだろうからって」
その通りだったから、聞いたときには驚いたよ・・・とアスランは笑って言う。
信じられない事態に、それとも地球の重力のせいか、頭が鈍くなってしまったように、言うべき言葉が見つからなかった。
ディアッカのやつ、余計なことを・・・とか、そのサングラスはやめろ、とか、何で昼間っからこんなところにいるんだ暇人が、とか・・・。どうでもいいことばかりが頭の中を通り過ぎては言葉にならずに消えていく。
ただ、目の前にいる存在、それだけに自分の全てが奪われていて。
「イザーク?」
トランクに荷物を載せ終えて、それでも立ったままでいる俺に、不思議そうな顔をして声をかけてくる。
その声が本物だということに、痺れた頭がようやく反応する。
「アス、ラン・・・、本当に、本物、なのか・・・」
ずいぶんとマヌケな言葉だったが、答える顔は笑顔だった。
「もちろん。きみも本物だろう?」
いたずらっぽく笑う声に、俺は条件反射のようにこたえていた。
「当たり前だ! 俺の偽者なんていて堪るか!」
すると、返ってきたのは言葉ではなく、温もり、だった。
人目も構わず、いきなり、俺は抱きしめられていた。
「会いたかった・・・」
耳元で聞こえる声は、本物の、アスランの低い音色で。抵抗するでもなく俺はそれを確かめるように抱きしめ返していた。
「勝手なことを・・・プラントを去ったのは貴様だろうが!」
言い返してやるとアスランは体を離しながら、困ったような特有の顔をする。
「それはそうだけど・・・。会いたいものは会いたいんだから仕方がないだろう」
悪びれもせず勝手なことを言うのは相変わらずだった。
「貴様、仕事はどうした?」
促されて車のシートに座りながら尋ねると、にこやかな顔でアスランは答える。
「休暇取ったよ、イザークが休みの間、ずっとね」
思いもよらなかったことに俺は目を見開いて、それから口の端をあげて笑う。
「なら、こき使ってやるから、覚悟しろよ」
「嫌だな、そういうの」
「黙れ、腰抜けが」
そんなやり取りをしながら、走り出す車の重力に、風を受けた髪が潮風になびいていく。
地球の大気のせいなのか、隣にアスランがいるからなのか、それはわからなかったけれど。
久しぶりの休暇に、俺の心が勝手に走り出して、青い、果てない空に溶けて出して軽くなっていく。
それが何だかおかしくて、俺はこみ上げる笑いを抑えもせず、隣で不思議そうな顔をしているアスランに構わずいつまでも笑い続けた------。
fin.
06/03/17
-4-