まずは挨拶からだ。
 言われたイザークが不審に思わないように、意識しないで普通に明るく言うんだ。明るく、普通に、意識しないで当たり前のことなんだから。

 朝起きてから何度も言い聞かせている言葉をもう一度アスランは心の中で呟いた。

 朝食の時間、いつもは前半の早い時間に食事を済ませるアスランが今日は珍しく半分以上過ぎたころに食堂に現れた。そしてトレイに食事を並べてあたりをキョロキョロと見回す。

 ------いた。

 窓際の指定席にイザークとディアッカの姿があった。
 昨日のディアッカのアドバイスを受けて、朝はいつも遅いイザークにアスランが時間を合わせたのだ。
 さりげなく、いつもの席が空いていないから、と他の空いている場所を探す振りをしてアスランはイザークの座っているテーブルに面する通路を歩いていく。
 そして、そのテーブルに近いところまでくると、自分たちに近づいてくる存在に気がついたイザークが顔を上げた。その隙をアスランは見逃さなかった。まるで敵の守備を崩すための唯一の突破口を見つけて突進するMAのように、引き下がることなく一直線にその通路を突き進んだ。
 
「やぁ、おはようイザーク」

 油断したら引きつってしまいそうになる顔の筋肉を無理やりにねじ伏せてアスランはにこやかに声をかける。

 よし、完璧だ。

 心の中でガッツポーズをしたい気持ちを抑えながらイザークの様子をみていたアスランだったが、それを見たイザークはあからさまに不審な顔をして声を出す。

「・・・貴様、熱でもあるのか?」

 この一言でアスランの一晩かけた「さわやか挨拶作戦」は見事に失敗に終わった。
 アスランは一瞬凍りついて、だがすぐさま普段のアスランに戻る。そして慌てて「いや、なんでもないよ」と言いながら食堂の真逆の席に慌てて歩いていった。


 意味がわからずにイザークが「何なんだアイツは」と文句を言いながら食事に戻る。
 イザークの向かいに座って二人の姿を見比べていたディアッカは、昨日の今日でアスランの行動の理由に思い当たり、ニヤリと口元に笑いを浮かべた。



 この出来事で、アスランの恋を知る人間がもう一人増えたのだった。






fin.



'06/06/22






-5-





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