寮の部屋の窓から敷地を出て行く同僚たちを見送っているアスランは空っぽになったドリンクパックを部屋の隅のゴミ箱に投げた。見上げる人工の空はすっきりと晴れ渡り、カコンッと軽い音がして金属製の箱にそれが収まる。
同室のラスティが気を利かせたつもりで置いていった大量のお菓子がアスランのデスクの上を占領してる。ラスティほど菓子をしょっちゅう食べる習慣なんてないから、食べきるには数週間かかるだろうと思われるくらいの量が週末の休暇のために提供されているのはきっとラスティなりに気を遣ったんだろう。
今回の休暇でアスランは帰宅する予定がなかった。いつもならラクスの挨拶伺いに行かないといけないからと誰よりも寮に残らないアスランだったが、今回はその予定もなかった。むしろ誰より家に帰る理由がなかったのだ。
5月の第二日曜日。
その日を含む週末がアカデミーでは休暇になっていた。入校から3ヶ月というタイミングもあるし、プラントでは母親というのはとても大切にされている。いくら医療技術が進歩しても母親に代わる人工の母体を作り出すことはいまだにできなかったために、人口の少ないプラントでは子供を生む母という存在は特別に大切にされているのだ。だから寮生のほとんどは母の日を家族で過ごすために短い休暇を我が家に向かって出かけていった。そんな中一人残ったアスランはすることもなかった。ラクスも母親と別のプラントの別荘にでかけるらしい。アスランも一緒にどうかと誘われたのだがアカデミーの休暇の日数ではそのプラントへの往復だけで時間がかかってしまってゆっくり休むこともできないし、何より水入らずで過ごすようにとラクスに薦めて同行を遠慮していた。
「射撃でもしようかな」
別に不得意なわけでも練習好きなわけでもないが一人で過ごすにはすることが限られてしまう。そんな中で射撃というのは集中してやっていればあっという間に時間が過ぎるし、相手を必要としない分一人で過ごすにはもってこいだと思われた。趣味のロボットの組み立てもこのところ立て続けにラクスに送りすぎて少々やり過ぎの感があるのでどうもする気にならなかったし、ちょうど必要な部品も切れていた。
射撃ではなくそれを買いに出かけようかと考え直して窓を閉めようとしたアスランに背後から派手なクラクションが届く。振り返って見下ろせばそこには黒いエレカに乗ったイザークの姿があった。他に車はなくクラクションを鳴らしたのはイザーク以外の誰でもないようだ。窓から身を乗り出すと、イザークがコチラをみながらポケットからモバイルフォンを取り出してそれから一瞬遅れてアスランのモバイルフォンが鳴った。
「出かける支度をして降りて来い」
それだけ一方的に告げるとはイザークはすぐに電話を切ってしまった。驚いて外を覗くと早くしろとばかりに腕を組んでこちらを見ている。
「出かける支度って・・・」
そんなこと急に言われても、とアスランは慌てて身支度をする。ちょうど買い物に行こうかと思っていたところだ。途中まで送ってもらうのもいいだろう、そう考えて私服に着替えるとイザークの待つ門の外へと向かった。
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