イザークと母親との距離が異常に近いというのはアスランでさえ知っている話だ。母と息子だけのジュール家ではそれはイザークはそれは溺愛されているらしい。それが母の日に親子水入らずで過ごせなくなるようなことを言い出しているのだからアスランじゃなくても驚くのも無理はなかった。

「母上にはちゃんと言ってある。貴様が来るのを楽しみにしてるはずだ」
「だけど・・・」

 歩きながらそれでも躊躇しているアスランにイザークはイライラしながら怒鳴りつける。

「うだうだとうるさい奴だな! 俺も母上もいいって言ってるんだ、貴様に断る権利などない!!」

 無茶苦茶な言い方に、けれどイザークなりの優しさを感じてアスランはようやく頷いた。確かに自分はひとりの時間をもてあましかけていたのだ。断る理由などないのかもしれない。

「わかったよ。その代わりエザリアさんに手土産くらい用意させてくれよ」

 アスランの言葉にイザークは満足したようにその顔をみる。

「ふっ、貴様とは違って俺は母上の好きなものは何でも知ってるからな、いくらでも教えてやるぞ。ケーキなら『ル・シュトゥラール』のモンブラン、茶菓子なら『パリメ』のクッキーとショコラムース、花なら白いバラが好きだぞ」

 得意になって言うイザークにアスランは掬うようにその手のひらを取って握り締める。驚いてアスランを見るイザークににっこりと笑いかけながらその先の提案をした。

「なら俺が運転するからその店にイザークがナビしてくれよ。でも花はイザークが用意すべきだろう、母の日なんだから」

 それもそうかと納得しながらイザークは握られた手に視線を落とす。

「おい」
「いいだろ、どうせすぐに車に着くんだから」

 むすっとしているイザークにアスランは楽しそうに笑う。その横顔を見てイザークは強引にアスランを引っ張り出してよかったと思った。
 
 母親が大事なイザークにとって母の日というのは特別で、それだけにアスランが一人で寮に残るというのを聞いてから気がかりで仕方なかったのだ。だからと言って自分の家に呼ぶのはどうなのだろうかとも思ったのだが、母の日に母親と過ごさないわけにはいかないという葛藤もあって母親に事情を説明したら、ディアッカ以外の初めての友人という存在に母親はとても興味を持って大歓迎するという話になった。少しだけ心配なのはアスランがあまり社交的じゃないというところだが、それはまぁパーティじゃないのだから無理をさせることもないだろう。

「言っておくが部屋は別だからな」

 イザークが言うと残念そうにアスランが表情を変える。

「残念だな、君の家に泊まる機会なんてもうないかもしれないのに」
「別に最後にする理由はない、来たければいつでも来ればいい」
「ああ、そうだね」

 ふっと笑ったイザークの予想もしない言葉にまたアスランは嬉しそうに笑った。







fin.



2006/5/12





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