「アスラン、あなたイザークのことが好きなんでしょう?」
後半は声を落として囁くようにして告げられた言葉に今度はアスランがイスからずり落ちるほど仰け反った。
「えぇっ…!」
どう考えたってアスランの悩みの理由は、イザークが好きだからという結論に落ち着く。いやそれしかありえない。アスランと一緒に驚いたラスティだが一瞬で立ち直り、ニコルと顔を合わせてうなずいた。
「そっかー」
イザークが絡んでいると先に気づいたのはラスティなのだ。受け入れるのも早い。というかアスランが誰を好きになろうが所詮は他人事にしか過ぎない分、あっけらかんとしている。
「に、ニコル?!」
泡食った顔でようやく床から立ち上がったアスランは言われた内容を信じられない顔で見つめた。
まだ訳が分からない顔をしているアスランにニコルは止めを刺す。
「あなたはイザークに恋してるんですよ」
言われた内容がアスランの頭の中でぐるぐると駆け巡る。
だって、イザークは男で、自分はイザークに嫌われてて。
そりゃイザークが笑ってくれたらなと思ったのは確かだけど、でも好きとかそういう気持ちなんて全然なくって、というか相手はイザークだろ? なんでそれが恋なんてことになるんだよ…!
「言っておきますけど、相手が男だとかいうのは否定の理由にはなりませんよ。それとイザークはあなたを嫌ってる訳じゃないです。ただ単に自分より成績がいいからライバル視しているってだけで、どっちかっていうとアスランのことは認めてますし」
まるで頭の中を覗き込んだようにズバズバ言うニコルにアスランは背中に汗が流れる気がした。
「だからって…」
必死に否定するきっかけを探すアスランにニコルはにべもない。
「気がついたら目で追ってるとか、笑いかけて欲しいと思うとか、言葉をかけられて頭が真っ白になるとか、それって典型的な恋の症状ですから」
まるで恋愛の指南役でもあるかのような物言いに、アスランはタジタジとなり、ラスティはその状況を楽しんで笑った。
「確かにイザークって顔だけなら断然美形だもんなー」
恋? これが恋だって…?
なおも汗が流れる背中を必死で正して視線を上げたその瞬間、アスランの目に飛び込んできたのは食事のトレイを手にディアッカと並んで席へ歩いているイザークの姿。
楽しそうに話をしながら、銀色の髪がさらさらと揺れていて華奢にさえ見える指先が美しくトレイを支えているのがわかって。
そして------。
不意にこちらを向いたその視線がまっすぐにアスランの視線とぶつかった。
!!
その瞬間、アスランの心臓が跳ね上がるように鼓動して、見る見る頬が赤くなる。慌てて必要以上に下を向いたアスランの額が見事にテーブルの縁に激突し、ゴンッ!と派手な音が響いた。
そしてニコルがあきれてため息をついて、ラスティが腹を抱えて笑う。
アスラン・ザラが恋を自覚した瞬間、だった。
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