暗く、照明が落とされた医務室。
アスランが足を踏み入れると、ベッドの上に人の気配があった。
「イザーク・・・」
小さく声をかけると、びくり、とその肩が震える。
恐る恐る近づくと、ベッドを照らす足元のライトがその人影を間接的に映しだしていた。
その顔には痛々しく包帯が巻かれて、白くきれいな顔は半分以上が隠されている。その顔を覆う包帯の面積と苦痛にゆがむ表情が怪我の酷さを表していて、アスランは言葉を失った。
「何を突っ立っている・・・」
顔を上げず床を睨んだままイザークの声が低く響く。はっとしてアスランは慌てて告げる言葉を探した。
「あ、いや、具合はどうかと思って・・・」
気のきかないセリフにアスランは自分で後悔をする。きっとニコルやディアッカだったらもう少しマシなやり取りをするのだろうと思うと、人付き合いが苦手な自分の性癖に自己嫌悪するしかなかった。
「どうも何もあるか・・・!」
予想通りイザークの返事は機嫌を損ねたものだった。
ストライクとの戦闘で大怪我をしているの体なのだ。具合などいいわけがない。イザークが目を覚ましたと聞いて心配になって来てみたものの、その先のことなど考えていなかった。何をどう言っていいのかわからないまま、包帯を巻いたイザークの姿にただ胸が苦しくなるばかりでアスランはどうしたらいいのかわからなかった。
「イザーク」
一歩だけ近づいてアスランは名前を呼んだ。
「・・・」
返事はない。
イザークに傷を負わせたストライクのパイロットの正体を自分は知っている。ナチュラルにやられたと思っているイザークのプライドは傷ついているに違いなかった。本当はコーディネイターなのだ、と明かしたら少しはイザークの心の痛みを晴らすことはできるのかもしれないけれど、どうしてもアスランはそれを言うことはできなかった。
「すまない・・・」
思いついた言葉は謝罪だった。
それがどういう意味なのか自分でもわからない。
自分の幼馴染がしたことを謝っているのか、その正体を明かせない自分を謝っているのか、気の利かない自分を謝っているのか・・・。
すべてが曖昧な言葉だった。
「なぜ貴様が謝る?!」
イザークが聞き返す。片方だけの空色の瞳が激しくアスランの翡翠の瞳を睨みつけていた。
まっすぐな青。
どんなときも、痛みに耐えているときですら、曖昧なアスランを見逃すことはない。でも今はそれが余計にキレイな顔を痛々しく思わせていて藍色の髪の少年は心が痛んだ。
「怪我をしたのは貴様のせいじゃない。ストライクの・・・ナチュラルどもの・・・っ!!」
自分がナチュラルにやられたことを自分の言葉で再認識してイザークは、悔しそうに顔をゆがませた。
ナチュラルという言葉にアスランは目を伏せてぎゅっと手を握る。
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