「ごめん・・・イザーク・・・」

 イザークのことは大切だけれど。でもそれとは種類の違う、大切な思い出の中の幼馴染。彼とのことを敵だと割り切ってすべてなかったことにしてしまうにはあまりにも多くの時間を一緒に過ごしてしまったから。きっとイザークのような強さがあればそれすら乗り越えていけるのかもしれないけれど、自分にはそれは無理そうだった。弱い自分には大切なものを切り捨てるなんてことはできなくて。
 それがイザークを苦しめているとわかっていても、それでもまだ割り切ることができないなんて。

「アスラン・・・? 貴様、どうしたんだ」

 様子のおかしなアスランにイザークは問いかけた。

「いや・・・なんでも・・・ないよ」

 顔を背けようとしたアスランの手首をイザークはつかみ取った。

「何を隠している?」

 じっと見つめてくる片方だけの青の瞳にアスランはどういっていいのかわからない。

「君が怪我をしたのが辛くて・・・」

 嘘じゃなかったけれど、全部本当でもなくてやっぱり語尾は曖昧になった。
 そんなアスランをみてイザークは掴んでいた手を離す。もともと割り切れない態度が多い奴だが、今のこの様子は普通じゃないとイザークは感じたのだ。

「俺にも話せないことなのか」

 ぼそり、と漏れた言葉にアスランは顔を上げてイザークを見た。
 俺にも・・・。
 その言葉に込められた思いに気づかないアスランではなかった。
 ただの同僚じゃなく、周囲が思っているライバル関係だけでもなく、ひっそりと築いた二人だけの絆。それを恋愛と呼ぶには二人とも余りに不器用すぎて、なんと言ったらいいのかわからなかったけれど。体だけじゃなく心まで全て解き放てる存在のはずじゃなかったのか、とイザークは言葉ではなく視線で訴えてくる。

「違う・・・、そうじゃないんだ、イザーク」

 君だから、大切な君だからこそ話せないんだ、とアスランは気がついた。
 曖昧な態度がイザークに心配をかけるのはわかっているけれど、全てを話して彼にまで重荷を背負わせたくなかった。
 それともイザークは全てを知って、その上でストライクを討ちに行くのだろうか。強くまっすぐな彼ならそれもあるかもしれないけれど、それも自分には辛いことだった。大切な人が大事な幼馴染を討つ場面なんて見たくなかったから。それならせめて知らないままでいて欲しかった。
 床に膝を衝いてアスランはイザークの目線と同じ高さになる。

「いつか・・・はっきりとはいえないけど、話せるときが来たらちゃんと君に話すよ。だから今は・・・ごめん」

 そっと、ベッドの上のイザークを抱き寄せてアスランは言った。
 腕の中に抱きしめられてイザークはアスランの髪をかき抱く。

「まるで貴様まで怪我人のようだな」

 ふっと笑う気配がしてアスランは目を閉じる。
 イザークの優しさが温かく染み込むようだった。

「・・・そうかも、しれないな・・・」

 自分の心の痛みは知らずに傷を負っているからなのかもしれない。イザークの言葉にアスランはそんなことを思った。

「アスラン」

 不意にイザークは名を呼んだ。体を離して顔を見ると、包帯に覆われていないブルーの瞳がゆっくりと閉じていく。
 いたわるように白い包帯に手を添えて、アスランは甘く口付けを落とした。

「約束は・・・守れ・・・」

 軍服の背中に腕を伸ばしてイザークは告げる。

「あぁ、わかってる・・・」

 緩く甘えるように抱き寄せられて、アスランは怪我人を抱きしめて返す。痛々しい傷にそっと唇を寄せながら。
 お互いの傷の痛みを舐めあうように、深く口付けを重ねながら。
 仄暗いベッドの上に二人の影はゆっくりと重なっていった―――。





fin.


2006/02/03




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