「でも、コーヒー牛乳は飲めるんだろ。だったら、ここのコーヒーオレってのはダメなの?」
ラスティのお気に入り、ドリンクパックシリーズのミルク飲料はイチゴオレ、フルーツオレ、コーヒーオレにバナナオレ、と郷愁を誘うラインナップが戦艦に不似合いなほど人気だった。コーヒーオレというのはカフェオレではなく砂糖たっぷりのコーヒーとミルクという組合わせの飲み物で、要するにコーヒー牛乳が名前を変えただけの飲み物だった。
その言葉にイザークはあきらめたかのように唇を噛んで顔をふん、と背ける。それをみたディアッカは毒食らわば皿まで、とばかりに覚悟を決めてニヤニヤと笑う。
「実はそれイザークのお気に入りなんだ、ときどき飲んでるよな」
視線の先でイザークは答えなかったが誰もがその事実に驚いた。イザークとコーヒー牛乳という不似合いすぎる取り合わせににわかには信じられなかった。いつも人前では嗜好飲料は紅茶しか飲まないのが常だったから。
「本当なのか、イザーク」
アスランの呆然ともいえる問いに本人は答えなかったが、大げさなほど頷く同室者の表情で答えは明白だった。抑えられているイザークが内心で、後でディアッカに蹴りを食らわせてやると思っていることは周囲の誰もが感じていたが、たぶん一番わかっているのはディアッカ本人だったからあえてそれには気づかないフリをしてみせる。
「いやー、意外だなぁ、イザークも甘いの好きなんだ。じゃぁフルーツオレは好き?」
ラスティは同類を見つけたとばかりに嬉々として問いかけた。フルーツオレは様々なフルーツの果汁と糖分とミルクを絶妙にブレンドして、酸味と甘みがひそかな人気商品だ。
「貴様と一緒にするな。アホみたいに甘いもんばかりガバガバ飲んでるとバカになるぞ」
コーディネーターに向けてその発言はどうなんだろう、と全員が思ったかどうかは定かではないが、イザークの発言はラスティを黙らせるには充分だった。オレンジ色の能天気な同僚はこれ以上調子に乗ってイザークを怒らせたら後が怖いと思い当たって大人しくなり、イザークの腕を離した。
「でも、疲れたときは甘いものが欲しくなりますからね。このシリーズは人気あるみたいですし」
それらしいことを言うニコルの腕からイザークが漸く抜け出して、大きく振り返る。
「ふん、ニコル、お前はコーヒーにミルク半分入れるんだろうが。大して変わらないな」
あくまで自分はお子様じゃないというスタンスを取りたがるイザークだったが、にこやかな年少の同僚にそれはあっけなく破られた。
「でも僕は苦いのがダメなんじゃなくて、カフェインに弱い体質ってだけですよ。苦いのが飲めないイザークとは違います」
「ニコルっ、黙ってれば貴様ぁ!」
穏やかに毒を吐くニコルを前にカッとなったイザークを止めたのは、パイロットに対しブリッジへの集合を告げる艦内放送だった。派手な警告音のあとに告げられた内容を確認すると、一転、表情を引き締めてそれぞれが飲みかけのドリンクを置いて踵を返す。
バタバタと駆け出していく、パイロットたち。
最後にラウンジを出たアスランはパックドリンクの自動販売機を振り返った。
『コーヒーオレ』と書かれた白と茶色と水色のカラフルなパッケージを記憶に残し、先を行く同僚を追いかける。
その日、夜中にラウンジにやってきたブラックコーヒー派のアスランが砂糖もカロリーもたっぷりの『コーヒーオレ』をこっそり買って味わっていたことは、たぶん、誰もしらない。
fin.
06/03/20
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