「・・・重そうだね、イザーク」
寮の玄関で鉢合わせたアスランは段ボール箱を抱えたイザークの姿を見るなり声をかけた。
「貴様こそ、両手がふさがってるじゃないか」
イザークは持ち手が切れそうなほどに膨らんだ紙袋を両手に提げているアスランを見て言い返した。
「・・・」
「・・・」
しばし無言でお互いを見遣っていたが、やがてアスランが沈黙を破った。
「ラスティの独自調査によると、イザークの方が3個ほど多いということだけど、本当のところはどうなんだい?」
「知るか! どいつもこいつも浮かれやがって、何がバレンタインだ、何がチョコレートだ。ここは軍人になるための施設だぞ、そんなもの渡してる暇があったら射撃の腕前を上げることでも考えろって言うんだ」
イザークの言い分にアスランは苦笑する。そんなことを言うくせにしっかりとダンボールを抱えて帰ってくるあたり、イザークの律儀さが現れていると思う。
「でも、きみは突き返したりしなかったんだろう?」
迷惑そうな顔をしながら手渡しで置いていかれるカラフルなラッピングの菓子をイザークは全て受け取っていたのをアスランは目撃していた。
「最初に渡してきた女に返そうとしたら泣かれそうになった。だから受け取ったんだが、そうしたら次々とやってきやがって・・・。不公平だから一人だけ受け取るわけにはいかんだろうが」
眉間に深く皺を刻み込んで言うイザークはかなり機嫌が悪そうだ。
「きみらしい話だな。ところでそれ、どうするつもりなんだい?」
抱え込んだままのダンボールを示してアスランが問うと忌々しそうに見ながらイザークは答える。
「ラスティにでもくれてやる、あいつは甘い物食ってれば幸せって奴だからな」
そういうとイザークはダンボールを抱えなおして階段を上がる。同じ階に部屋があるアスランは自然とその後を追う形になった。
「なら俺もそうしようかな」
ラスティの部屋の前でダンボールを床に下ろしたイザークにアスランは言う。
「勝手にしろ」
イザークの許可を得てアスランはダンボールの横に並べるように紙袋を置いた。それは見るものが見れば羨望の眼差しを送るであろうチョコレートの山だ。アカデミーで総合成績一位と二位の二人が渡されたチョコレートの数も見事に一位と二位だった。自他とも認める甘党のラスティが面白半分に二人について回って集計していたのだが、イザークは58個、アスランは55個ということだった。ちなみに3位はディアッカの21個で、二人の数はダントツなのだ。
「イザーク」
部屋へ入ろうとしていたチョコ獲得トップの少年に、甘党ではない少年が声をかける。
「何だ」
「紅茶、淹れてくれないかな? 久しぶりにきみの紅茶を飲みたいと思って」
イザークの淹れる紅茶の味は折り紙つきだ。食べ物にあまりこだわりのないアスランにさえその違いがわかるほどに。
するとイザークはまんざらでもない顔をした。
「貴様に頼まれなくても、飲みたいと思っていたところだ。ついでに淹れてやる」
課題の終わった順に授業終了という形式がとられた最終時限の科目は、アスランとイザークが飛びぬけて早く終わったためにまだ寮に戻ってくる者の気配はなかった。
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