「で、盤はどこだ?」
アスランの部屋に入るなり、イザークはあたりを見回して確認した。
「あぁ、それは・・・」
言いながら部屋の住人は後ろ手に自動のドアが閉まるのを確認する。空気の圧力でほとんど無音のまま金属の扉は外部とその部屋を遮断した。
「ないよ」
あっけなく嘘だったことを白状してアスランはさも楽しそうに笑う。
「ないだと?! 貴様、嘘ついたのか!」
一昨日のチェスのリベンジをしたいと申し出たアスランに、快勝したイザークは気をよくして受けてやる、とこの部屋にやってきたのだ。
いきり立つイザークにアスランは余裕の表情を見せる。
「そうじゃないとイザークは俺の部屋なんかに来てくれないだろう」
アスランなんか、と常日頃から激しくこき下ろして憚らないイザークのこと。勝負事以外で大人しく部屋についてくるなんてありえない。それをわかりきっているからわざわざ嘘をついて呼び出したのだ。
「前からイザークに聞きたいことがあったんだ。なかなかゆっくり話を出来ないから、呼んだんだよ」
「聞きたいことだと?」
貴様に話すことなど何もない、とばかりに睨む銀髪の少年にアスランはふっと目を細めた。
「イザークにとって俺って何なの?」
藪から棒に尋ねられて一瞬何が何だかわからない。
「は・・・ぁ?」
ぽっかり、といえるくらいに口を広げたイザークに苦笑しながらアスランはゆっくりと歩み寄る。
「だから、イザークにとって俺って何なのかっていうことだよ」
「何なの、って・・・、貴様何が言いたい?」
元から意味のわからない言動をするような奴ではあるが、とことん意味不明な質問に形の良い眉を顰める。イザークはアスランの言おうとしていることがまるでわからなかった。
「俺に勝った、負けた、っていつも言うけどさ。そんなに俺のことが気になるのか、って思ってたんだよ」
「気になる・・・って、貴様・・・勝手なことを言うな!俺はそんなこと言ってないぞ」
「うん、知ってる。だから聞きたかったんだよ」
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