「ふざけるな、アスラ〜ンっ!」
声が耳に届くと同時に、アスランは振り返る。高潮した頬に柳眉を吊り上げたイザークは毎日といっていいほど目にする姿だ。
「イザーク・・・、何だっていうんだ」
肩を怒らせてずんずんと歩いてくる姿に、淡々とアスランは問う。
「さっき、俺が取っておいたイチゴ、食べただろうっっ?!」
イチゴというのは先ほどの昼食のデザートで出されたものだ。イザークは時間がなくて後で食べると食堂にある寮生用の冷蔵庫に入れていたのを確かにアスランも見ていた。普段ならそんな手間かけるのは面倒くさがってディアッカかニコルあたりにあげるのに、とぼんやりと思っていたからよく覚えている。だが、それをアスランが食べたというのは寝耳に水の濡れ衣だった。
「え? そんなことしてないよ。どうして俺がしたってことになってるんだ」
出されたものはきちんと食べるが、人のものをもらって食べるほどにイチゴが大好物というわけではない。第一、アスランあたりの育ちなら食に困ったことなどなく食べ物に対する執着は強くない。そうでなくても黙って人のものを食べるなんて泥棒まがいの疑いをかけられるなんて冗談じゃなかった。
「どうしてって、貴様はさっき冷蔵庫の前にいたじゃないか!」
言われてみれば確かに授業を終えて飲みかけのドリンクを冷やしておいたのを思い出してそれを取りに行ったが、そのときにイザークのイチゴはすでになかったんじゃないか、とアスランは記憶を探る。
「いたことはいたけど君のイチゴなんて知らないよ。それにそのときにはもうなかった気がするんだけど」
「なにぃーー?」
目を三角に吊り上げて声を上げるイザークにアスランはあっけに取られた。
「もしかしてイザーク、イチゴが
大好きなのか?」
思わぬ問いかけに、威勢のいいイザークは一瞬ぱたりと動きを止めた。
面倒くさいことが嫌いでいつも簡潔明瞭、その場で何事も終わらせるイザークが時間がないからっていう理由でわざわざデザートを冷蔵庫に入れるなんてよほどのことだと思ったのだが、そう考えると今の怒り方からして納得もいく。
「う、うるさいっ、貴様には関係ないだろ!」
ぷりぷりと怒りながら背を向けたイザークに何も言わず、顎に手を当ててしばらくアスランは何かを考えていた。
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