「あれ、アスラン、それどうしたんですか?」

 夕食の時間、食堂で定位置に座ったアスランに同じく決まった席についたニコルが尋ねた。アスランのトレイの前には明らかにケーキの箱らしきものが置いてあったのだ。

「あぁ、イチゴパイなんだけど・・・食べないか?」

 寮生活をしている生徒たちは基本的に食事は食堂でとるがそれ以外のものを食べてはいけないというわけではない。家族からの差し入れをみんなで分け合うというのも良くある光景だった。アスランの手元にある箱はどうやら差し入れらしい。

「珍しいですね、アスランに差し入れなんて。しかもお菓子ですか?」

 アスランに差し入れなんて今までなかったし、しかも甘いものが好きなわけではないアスランにパイというのは意外だった。

「あぁ、俺は甘いの苦手だからよかったら食べてよ」

 すでにカットされたパイを一切れニコルへ差し出しながら、アスランは後ろを振り返って彼にしては大きな声をあげた。

「ラスティ! イチゴパイ食べないか?」

 その声に呼ばれた本人は飛び上がってアスランたちのところへ飛んでくる。それと同時にカウンターからトレイを運んでくる人影がアスランの目に入った。

「やぁ、イザーク。よかったら君も食べないか」

 にっこりと笑いながらアスランはイザークを誘う。その笑顔にイザークは顔をしかめつつも、そのテーブルにあるイチゴのたっぷり飾られたパイに目をやった。

「わぁ、うっまそう! いっただきまーす」

 ラスティがアスランの隣に滑り込んでいきなり手づかみでパイを口に放り込む。幸せそうな顔をしながらそれを頬張る同僚にアスランは問いかける。

「ところでラスティ、冷蔵庫にあったイチゴを食べたのってキミなんだろう?」

 その質問にイザークは明らかに目を見開いて質問の意図を読み取ろうとアスランを凝視する。

「んぁ、あれアスランのだった? なんか名前書いてないから余ってるやつだと思って食べちゃったよごめーん」

 ラスティの質問にイザークはカッと顔を赤くして、アスランをにらみつけた。明らかに濡れ衣だと証拠を掴んだ上で、本人に目の前で白状させる。そのうえイチゴが好きなイザークにイチゴたっぷりのパイを見せつけて、それを分けるとまで言って。それは明らかな意趣返しにだった。きっとこのイチゴパイだってこのために手配して届けさせたのだろう。
 イチゴのように頬を真っ赤にしたイザークにアスランは畳み掛ける。

「イザークもディアッカも食べてよ。イザークは昼のイチゴが食べられなかったんだっけ?その分ももらってくれて構わないよ」

 真っ赤なイチゴと添えられたクリームの白、香ばしく焼きあがった生地の狐色にそれを覆う艶やかなシロップ。飾られたミントの葉のグリーンが目に鮮やかだった。イザークはゴクリと生唾を飲み込む。イチゴパイはイザークの大好物だった。

「そんなものいるか!!」

 ディアッカを無理やり連れてイザークはどかどかと靴音を立てながらその場から遠ざかっていく。その後姿にアスランは満足そうに口元だけで笑った。

 君が悪いんだからね---。



 もちろん、消灯前の自由時間にイザークの部屋へ大好物のイチゴパイがお遣い役のニコルによって届けられたのは言うまでもない話。






fin.



2006/05/16

アスイザ好きさんに28のお題
 NO.7 「お前が悪い!」






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