「あいつは戦うことでしか自分の存在意義を確かめられない奴だ」
イザークは窓の外を見ながら副官であるディアッカに告げた。漆黒の宇宙が強化プラスチックガラス一枚の向こうに広がっている戦艦の中、何を見るとでもなく窓の外を眺めながら。
「けどあいつは戦うことが嫌だって言ってたぜ?」
戦っては何も解決できない、それを世界にわからせるためにやむを得ず剣を手に取るのだ。第三の勢力となることを決めたときにそう言っていたのはディアッカの記憶違いじゃないはずだ。ほんの2年前の出来事だった。
ジュール隊の隊長と副官は評議会に呼び出されてプラントに戻っていたが、昨日、母艦であるヴォルテールに戻ってきていた。
「だがあいつの本質は『戦士』だ。誰よりも戦場で己の力を発揮する。貴様だってわかってるだろうが、あいつは細かな折衝や人脈作りみたいな器用なことができるやつじゃないってことくらい」
腕を組んで窓に寄りかかるとイザークの銀色の髪が擬似重力に緩やかに舞った。それに付き合って背中を寄りかからせながらディアッカは意地悪そうに笑う。
「あぁ、イザークとおんなじで、言葉であれこれいうより動いたほうがうまくできるタイプってこと?」
クツクツと肩を揺らして笑いながら、だがその目は穏やかな笑みを浮かべている。伊達に長く付き合っているわけじゃないということのようだ。
「俺と同じってのは余計だ! あいつは戦場でこそあいつでありえる・・・逆にいえば戦場でしかあいつたりえないってことだがな」
あくまでも名前を口にしようとしないイザークにディアッカはまた笑う。
「アスランの奴、戻るかな、ZAFTに」
護衛監視という名目で呼び戻されて、旧友と再会したのは3日前のことだった。その場でイザークは中途半端な立場にいるアスランを叱咤して、ZAFTに戻るようにと説得したのだ。あいまいなアスランの反応ではあったけれど、イザークもそしてディアッカもアスランは戻ってくるだろうと信じていた。誰より近くで戦った仲間だ。どんな言い訳を並べようとも彼の求めている本当のものはひょっとしたら本人よりわかってしまうのかもしれない。アスランというのは優秀なくせに自分のことはまるで見えない奴だから。
「あいつは戻ってくる」
確信めいた口調でイザークは言い切った。ディアッカもそれを否定する気持ちなんてさらさらない。けれど、アスランのことになるとやけに一生懸命な元同僚である上官を見ているとどうしてもからかいたくなってしまうのはかつてのように手軽にからかう相手が他にいなくなってしまったからだろうか。
「やけに自信たっぷりだな。やっぱ、戻ってきてほしいわけ?」
個人的に、という意味合いをこめて皮肉ると上官の整った眉がしかめられる。
「うるさいぞ! あいつの力はZAFTには大切だと言ってるだけだ!」
バンッ!と壁を叩いてイザークの体は宙に舞い上がる。長い軍服の裾がひらりと跳ね上ってわずらわしそうに舌打ちをするとブリッジに向けて方向転換をした。
「・・・まったく、素直じゃねーなー」
副官は肩をすくめると小さくつぶやいて隊長の後についていった。
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