「アスラン元気ないですね、どうしたんですか?」
 ナイフ戦用の訓練着に着替えたアスランにニコルが目ざとく気づいて声をかけてきた。
「いや、ナイフ戦、イザークとやるの嫌だな、って」
 そう言ってアスランは苦笑する。すでにいくつもの科目でイザークとの対決をしているが、 直接に身体が触れるような科目ではいつも土壇場でイザークが逆転していた。その理由はイザークの無防備なまでの女体攻撃にアスランが対処しきれないということなのだが。
「イザーク、遠慮なしですからね。アスランも遠慮しなければいいんですよ。体格差を考えれば絶対にアスランが有利なんですから」
 ニコルの言葉にアスランは曖昧に答える。
「うん、まぁ・・・」
 正直、アスランはイザークを見直していた。もともと優秀な人間だと評価していたが、少女となって明らかに前よりも筋力にしても体格にしても差があるというのに、以前と変わらない成績を収めているからだ。それだけに自分も本気を出して相手をするのが礼儀だとは思うのだが、あの胸の弾力だけには慣れることはできそうもなかった。柔らかい胸が腕に当たるだけで「うわっ」と思って引いてしまうのだ。もはや遠慮というよりもそれは条件反射だった。
 そんなことを考えているアスランとニコルの前に、イザークが姿を現した。つなぎ風の訓練着越しに丸みを帯びた女性らしい体型がわかる。それを見たアスランは軽くため息をつく。
「今日は対戦することになりそうだな。ナイフ戦くらい勝ったらどうなんだ? 最近、貴様の得意科目で俺に勝てたことないだろうが」
 その理由を一人だけ理解していないイザークは得意げにアスランを見る。それにニコルとアスランは揃って顔を見合わせて苦笑した。知らぬが仏とはこのことだろう。背を向けて歩き出したイザークを横目にニコルはアスランに提案する。
「ディアッカにイザークを負かしてもらうっていうのはどうでしょう?」 
 彼も本気を出したら強いはずですから、とニコルが言うがアスランはあっさりと否定する。
「そんなことして今まで手を抜いてたことがばれたらただじゃすまないだろうし、第一ディアッカがイザーク相手に本気だすと思うか?」
 確かにそうですね、とニコルは頷いた。



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