「あら珍しいわね、イザーク・ジュール。着替え?」
次のナイフ戦クラスのために寮に戻ったイザークに、ケイティ・モートンが声をかけてきた。ケイティは碧の瞳に漆黒の髪を襟足だけ長く垂らしてカールさせていて、すらりとしたスタイルのいいパイロット候補生だ。イザークを除けば女子ではナンバーワンの成績の少女だった。
「薬物処理の実験のあとに、ナイフ戦というタイムテーブルはどういう組み立てなんだ?!」
汚れた白衣を翻しながら腹を立てて言うイザークにケイティは近づいて言った。
「あなた気をつけなさいよ。女子の一部でイザーク・ジュールはもとから女だったんじゃないか、って言ってる人たちがいるから」
「何だ、それは?!」
思いもかけない言いがかりにイザークは急いでいた足が立ち止まる。
「やっかみでしょう。イザークファンクラブっていうのが男子の中でできたらしいから。あなた、男子寮に入り浸ってるでしょ?そうしたくてもできない人たちが大勢いるのよ。そういう子たちは何をするかわからないから。それに・・・」
言葉を途切るとケイティはにっこりと笑ってイザークを見る。
「ディアッカのファンの半分はあなたに嫉妬してるから。男だったらどんなに仲が良くても許せたファンでもあなたが女になったら許せないらしいわよ」
するとケイティの言葉にイザークは引っかかりを覚えて聞き返した。
「半分? 残りの半分はどうしたんだ?」
思わぬつっこみにさすがイザークとばかりにケイティは笑い出す。
「のこりの半分はあきらめたみたいよ。あなた相手じゃ敵わないって」
その答えにイザークもつられて笑う。
「そんなことであきらめるくらいなら最初からディアッカなんて追うだけ無駄だと、そいつらに言っといてくれ」
さわやかなまでの笑顔でケイティに告げるとイザークは時間を気にして走り出した。その後姿を見ながらケイティは、イザークがなぜ人気があるのか解る気がした。
どこまでも、たとえ性別が変わるという大事故にあったとしても自分が自分である自信を失わなずまっすぐに前を向いている。それは異性であるということを超えて人として惹かれないわけはないだろう、とケイティは思った。しかも女になったイザークは男だったときとは違った魅力を持った美少女なのである。
「とはいっても、最初から女やってる私としてはいきなり女になって成績も人気もナンバーワンになられちゃうと立つ瀬がないんだけどね」
まいったわ、と一人残されたケイティは笑ってイザークの後姿を見送った。
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