ディアッカはイザークがいなくなってから、そのまま二人部屋を一人で使っている。期の途中で部屋替えをすることは事実上不可能だったからだ。そしてそれをいいことにイザークは元自分の部屋であるこの部屋に入り浸りだった。
 シャワールームを部屋の住人であるディアッカよりも先に、当然とばかりに占領しているのはイザークだ。その水音を聞きながらディアッカは床に座り込んでいる。アスランに勝った事で上機嫌なイザークは鼻歌交じりでその声が聞こえている。
「・・・っとに、マジで何とかしてくれよ」
 誰にでもなくディアッカはこぼす。
 イザークがアカデミーに戻ってきたことはいつも近くにいられるという意味では嬉しかった。だが、それがこんな事態になるとは思いもしなかったのだ。
 男だったときには気づかれることのなかった仕草のかわいさ。それが女になったことで人目につくようになってしまったのは誤算だった。イザークは女になったからといって振る舞いを変えるなんてことは全くしないから、男のときと同じことをしていて、そしてそれが美少女という外見と女なのに男っぽいというギャップによってまわりの男どもには魅力的に映っていた。
「ディアッカ?」
 部屋の外からニコルの声がした。
「ニコルか、どうかしたか?」
 その声を入室の許可と捉えてニコルはドアを開けて入ってくる。
「イザークがこっちに戻ったんでしょう? せっかくだからお茶でもしようかと思って」
 そう言って手に持っているのはリーフの入った缶と高級そうな焼き菓子のセット。なんだかんだとニコルもイザークを好いていたから、会えるのを楽しみにしているらしくイザークがいると部屋によく来るようになった。
「ああ、いまシャワー浴びてる・・・」
 脱力しきって応えるディアッカにニコルは事態を理解して同情の目を向ける。
「女子寮には寝るだけに帰ってるんですか、イザークは」
 ここのところ、授業が終わると同時にイザークはディアッカの部屋にやってくる。そして男女共通の食堂で夕食を摂って、食後の団欒を終わらせてから自分の部屋に戻っていくのだ。昨日まではシャワーは自分の部屋で浴びていたのに、今日はそれすらディアッカの部屋で済ませるという荒業にでたらしい。
「ああ・・・」
 勝手知ったる部屋とばかりに、お茶を入れる支度をしているニコルはクスと笑って毒を吐く。
「そのうち寝るのもこの部屋になるんじゃないですか」
「しゃれになんないこと言うなよ」
 イザークなら本気でそれくらいしそうで、パジャマ姿で平気で廊下を歩く姿を想像しただけでディアッカは頭が痛くなりそうだった。  するとガチャリとドアの開く音がしてシャワー室からイザークが出てきた。アンダーを着てはいるが、下着は身につけていないらしく、柔らかな胸の膨らみとぷっくりとした乳首の形があからさまに目立っている。
 それをみたニコルは、ご愁傷様、という顔でディアッカを見遣り、視線の先のディアッカは額を押さえて天井を見上げた。
「ニコル、来てたのか」
 それに気づかないイザークはご機嫌で声をかける。
「ええ、紅茶を持ってきました」
 ニコルはさして気にした風でもなく普通に応える。もともと中性的な印象のニコルは、イザークの色気丸だしな姿にも男としてのありがちな反応をするわけでもなかった。


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