「ふん、たいしたことないな、貴様も」
 格闘戦のクラスで対決したアスランに向かってイザークは言った。上から押さえつけるような格好をして得意そうに言っているイザークとは対照的に、下敷きのアスランは困ったような顔をしている。
「勝者、イザーク・ジュール」
 審判の声を聞いて立ち上がると手を差し伸べることもなくイザークはギャラリーの中に戻っていく。それをちらりと見遣ったアスランはゆっくりと立ち上がると自分を見ているディアッカと視線が合った。その視線はどこか同情が見て取れて、アスランは苦笑する。
 正直、やりにくいとアスランは思っていた。
 射撃やMS戦ならば問題はないのだが、男女の区別なく実施される授業の、直接に身体を使う科目でのイザークとの対戦はアスランにとって悩みの種となっていた。
 
 腕を取って引き倒したイザークをアスランは一瞬で押さえ込んだ。抵抗するイザークはなんとか腕を解こうと上半身をよじって足掻いている。
「あっ」
 声を上げたのは対戦を見ていたニコルだった。視線のさきでアスランは一瞬の隙を突かれて、イザークに逆に押さえ込まれるカタチになったのだ。
「アスランが逆転された?!」
 驚いて声を上げるラスティの隣で事情を理解したディアッカは小さくため息をついた。
「腕が落ちたな、アスラン」
 余裕綽々で言うイザークだったが、アスランは内心ほっとしていた。押さえ込んだときに、イザークの胸が思い切り腕に当たっていたのだ。成績を重視して対戦相手が組まれるために、常にトップのアスランは女子と対戦したことがなかったので、その柔らかな胸の弾力に動揺して思わず動きが止まってしまい、その隙を突いてイザークは押さえを解いてアスランを組み敷いたのだ。
 イザークに言わせれば男も女も敵であれば関係ない、そんなことで隙を突かれるなどただの腰抜けだということになるのだろうが、もとから女性が得意ではなく免疫のないアスランにとっては女だから手を抜かないというのは無理な相談だった。
 そしてイザークは自分が女になったことをまるで気に留めてもいないどころか、それが周りにどんな影響を与えているのかも気づくわけはなかったから、それまでと変わらない振る舞いをしていて、おかげで少なからず被害者がでているのだった。



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