「イザークっのドナーってかわいい子だったんだな」
 ラウンジでジュースを飲みながらラスティは言った。目の前で紅茶を飲むニコルはイザークの様子にこれから起こりそうなどたばたが予測できる気がした。見かけは変わったとは言っても中味はあのイザークだ。負けず嫌いでプライドの高いイザークがうまく元にもどれるのだろうか。
「そんなにかわいいのか?」
 あの場に居合わせなかったアスランはそんなことを聞いた。ドナーの少女は写真でしか見ていないのだ。
「かわいいよ。イザークって言われなかったら絶対誘っちゃうね、オレ」
 楽しそうに言うラスティにニコルは嗜める。
「ラスティ!」
 彼のすぐ後ろにはようやく女子寮から戻ってきたらしいディアッカが姿を現した。
「なら、早めにイザークだって知ってよかったな」
 ラスティの首に腕を回して締めるマネをしながらそうささやく。
「うわ、ディアッカ!やめろよ!!何すんだよ」
「早かったですね、イザークは?」
 ニコルの問いかけに腕を解きながら、ディアッカは席に着く。
「女子寮にオレは入れないから、荷物ほどいてると思うぜ」
「あいつ、部屋は一人なのか?」
 アスランがそんなことを聞く。
「らしいよ。こんな時期から戻るから二人部屋は空きがないらしい。ま、ちょうどいいんじゃない?事情もそうだけどあいつの癇癪に付き合える女の子はいないでしょ」
 かつての自分を遠まわしに褒めるように言う少年は小さくため息をついた。
「また、アスランと対決するのかあいつ?」
 ラスティが楽しそうに言うとニコルはアスランを見た。
「本人はそのつもりだぜ。気の毒だけど覚悟しとけよ」
 ディアッカは紺色の髪の少年を見て同情半分に言う。
「覚悟って言われても・・・」
 戸惑うアスランに背後から声が掛かる。
「覚悟などする必要ないぞ。どうせ貴様は俺に負けるんだからな!」
 高く澄んだ声でそういわれたアスランは驚いて振り返る。そこには亜麻色の髪をポニーテールにした少女が一人。
「イザーク!」
 ニコルが声をかけてその少女はディアッカの隣に席をとる。
「お前、荷物そのままにしてきたのかよ」
 ディアッカは予想のつく室内に軽くため息とついた。もうオレは同室者じゃないから知らないけど、と内心舌をだしながら。
「『俺』って言うわけ? その格好でぇ?!」
 ラスティが反則だぁと騒ぎ立てるがイザークは無視してアスランを向く。
「女だからって手を抜いたら承知しないからな」
「別にそんなつもりはないけど・・・」
 アスランはまだ混乱していた。いくら頭で理解していても、目の前の少女はイザークの激しいイメージとはかけ離れて、口を開かなければ確かにかわいい少女なのだから。
 その二人とは別のところで気を揉んでいる人間が一人。そしてその人間を同情しながら眺めている人間が一人。無責任に楽しんでいる人間が一人。
 傍から見れば仲のよかったトップ組がその復学を祝って団欒しているように見える光景なのだったが・・・。
 イザークはこうしてアカデミーに戻って来たのだった。




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