「ディアッカ・・・」
 自分の部屋に連れてきたディアッカにイザークは不思議そうに聞き返した。
「どうせもう時間だ。授業だって終わりだろ。ならここだって同じことだからな」
 よく冷えたミネラルウォーターをイザークに渡しながらディアッカはその髪を撫でてやる。
ゴクゴクとそれを飲み干したイザークは目尻に残った涙をぐいっと拭った。
「落ち着いた?」
 ちょこんとベッドに腰掛けた少女は黙ったままそれに頷く。
「まったく、とんだハプニングだな。あいつらタダでイザークの肌見やがって」
 そこにはいないギャラリーにそう毒づいてディアッカは開いたままの服の裂け目をちらりと覗いた。
「ば、ばかっ」
 イザークは慌てて胸を隠す。
「けど、ちょうどよかったかな。牽制になったから」
「牽制?」
 ディアッカの言葉にイザークは聞き返す。
「そ。イザークファンクラブまで出来て、オレとしては冗談じゃないって思ってたとこだから、イザークが人前で抱きついてくれていいアピールになったな、ってさ」
 言われてちょっと前の自分の行動を思い出す。動揺していたとはいえ人目もはばからず、駆け寄ったディアッカに抱きついてしまっていた。
「・・・っ」
 思い返したイザークは真っ赤な顔をしている。ディアッカからあんなことをしたならばイザークが激昂してただじゃすまないのだが、イザークから抱きついたとなれば文句も言えない。だが、イザークはあることを思い出した。
「なら俺にとっても牽制になったわけか」
「イザークにとって牽制?」
 意味がわからないという顔をしてディアッカはイザークを覗き込む。
「お前のファンの残り半分への牽制だ。お前のファンはなかなか過激らしいからな」
 ケイティに言われたことを思い出してイザークはクスリと笑う。
「まさかイザーク、何かされてるのか?」
 自分にファンが多いことは自覚しているディアッカだったが、イザークへの嫌がらせということは想像していなかった。
「いや、今のところはされていないさ。だが今回のことがいい牽制になるなら心配することないだろう。それに俺も黙ってなんていないしな」
「何かあったらすぐに言えよ。何があっても守ってやるから」
 優しい声音でディアッカは心配そうな顔をして少女を覗き込む。
「・・・わかってる」
 俯いて小さくそう言うとイザークはふいにディアッカに抱きついた。


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