「イザーク?」
 驚いたディアッカはその身体を抱きしめながら名前を口にした。
「本当はいつもお前のそばにいたい・・・。部屋だってずっとここにいたい・・・。一人の部屋なんて嫌だ・・・・・・」
 女としてアカデミーに戻って、今までと変わらない振る舞いをしていたイザーク。けれど、その心のうちでは寂しいところも隠していたのだ。以前ならイザークがたまに弱気になるのは、自分たちの部屋で夜になってからだったが、今はイザークがディアッカの部屋にいるときはたいてい誰かが遊びにきている。だからイザークもそんなそぶりは見せられなかったのだろうし、ディアッカも聞いてやるような機会もなかった。だが、たまたまこうして二人きりになれたことでイザークの緊張が緩んだらしかった。
 女として変わらずに振舞っていくには、想像もできないストレスがあるのかもしれない。なのに自分ときたら、イザークが戻って以来、他の男の目ばかりが気になって、イザークを気遣ってやる余裕なんてすっかりなくしてしまっていたなんて大バカだ。細い肩を抱き寄せながらディアッカはそんなことを思った。
「気づいてやれなくてごめんな、イザ・・・」
 ディアッカは甘くその名前を呼ぶ。
「ディア・・・」
   ぎゅっと背中に抱きついて離そうとしない少女を微笑みながらそっと剥がすと、ディアッカはゆっくりと顔を近づけて、そっと唇に触れる。
「今日、泊まってく?」
 告げられた言葉にイザークのヘイゼルの瞳は驚きに見開かれる。
「そんなこと・・・いいのか?」
 戸惑うような言い方だが、その声には嬉しさがにじみ出ていた。
「男子寮は女子の立ち入りは禁止じゃないって言ったのはイザークだろ? それに明日は授業ないし」
 悪戯っぽく片目を瞑るディアッカにイザークは嬉しそうに頷いた。
「けど、一応女子寮の誰かに訳を話しておいたほうがいいだろうな。そんな子、誰かいるか?」
 ディアッカのつぶやきにイザークは一人の少女の名を上げる。
「ならケイティ・モートンがいい。お前のファンのことを俺に忠告してきたのもあいつだから、信用できそうだ」
 イザークの挙げた少女は確かにさばさばとした性格でディアッカも好印象を抱いていた。
「だが、やはりいきなりそんなこと頼むのは無理か・・・」
 イザークが自信なく言い直したが、ディアッカはあっさりとそれを否定した。
「ケイティならアスランとのデート1回でも取り付けてやれば大丈夫だよ。あいつアスランのことが好きなんだぜ」
 色恋沙汰には疎いイザークとは違ってさすがにディアッカは事情通だった。
「なら決まりだな」
 にっこりと笑ってディアッカに抱きつきなおすイザークを膝の上に抱き上げながらディアッカは一つ忠告するのを忘れなかった。
「ただし、パジャマのままで廊下に出たりするなよ。ここは狼の巣窟なんだからな」
 それに笑いながらイザークはディアッカの首に腕を回す。
「一番の狼が、何言ってんだ!」
 クセのある金髪をぐいっと後ろに引っ張られ、「いででで」とディアッカは悲鳴をあげる。
 それに笑いながら膝に乗ったイザークは好きで好きでたまらない恋人にぎゅっと抱きついた。







END



2005/7/22



あとがき。


キリリク「光の渦」の番外編を書いてみました。
続編などとは一切関係なく、完全なる番外編という前提で
イザークがアカデミーに戻った話、というリクエストだったのですが・・・。
本人の予想以上に長くなってしまいました。
番外編ということで本編とは全く違うテイストで書いてみましたが、
いろいろあった要望のうち、ほんの一部しか答えられてないような気が・・・
(ていうかそれすらも不十分ですが;)

リクエストくださったまゆぽんさん、こんな話ですみません。
少しでもお気に召していただけたら嬉しいです。