一瞬、間をおいてアスランが飛び込んだ。イザークはそれを避けた、と思った瞬間に身体をそらしながら強引に突っ込んでアスランに向かってナイフを突き出した。
 シュッ。
 アスランのナイフから低い音がして、イザークの訓練着を掠めた。
「あっ」
 見ていたニコルが声を上げる。観衆もそれに気がついてざわめいた。
 だが、イザークは気づかないでなおもアスランに向かってナイフをかざしている。向き合っているアスランはその事態に舌打ちをして、ナイフを受け止めて力一杯跳ね上げるとイザークの腕をつかみ取り押さえ込んだ。
「何する、貴様っ」
 本気を出したアスランに一瞬で勝負をつけられてイザークはがなりたてる。だがアスランは冷静にそれを制すると小声でささやいた。
「イザーク、胸・・・」
 視線をそらして告げるアスランに一瞬不審な顔をして、言われたイザークは自分の胸を見下ろした。
 鎖骨から脇の下にかけてアスランの剣先が掠めたとおりに訓練着がすぱっと切れている。そして大きく開いた切れ目からは白い肌のふくらみと淡いブルーの下着が思い切り顔を覗かせていた。
「う、うわぁっ」
 驚いたイザークはナイフを投げ出すと、その場にペタンと座り込んでしまった。真っ赤な顔をしてイザークは胸の前を隠し戸惑ったまま動けなくなってしまった。
 対戦相手のアスランも困った顔をしている。何かかけてやろうにも訓練着は上下つながっていて上着だけ脱ぐということができないのだ。
「イザーク!」
 そこへ名を呼ぶ声とともに、ギャラリーの中から金髪の少年が慌てて飛び出してくる。
「ディアッカ・・・」
 駆け寄ったディアッカにイザークは夢中で抱きついた。ディアッカは汗を拭くための大判なタイルを手にしている。しゃがみこんでそれをかけてやりながら「大丈夫か?」と怪我の心配をした。
「け、怪我はない・・・」
 びっくりしたままのイザークはうっすらと涙さえ浮かべていた。
「教官、着替え行ってもいいですか?」
 イザークを抱きかかえながらディアッカは許可を求める。
「ああ、仕方がない。とっとと戻れよ」
 イザークを連れて歩くディアッカの背中にアスランは「すまない」と声をかける。
「ハプニングだ、仕方ないさ」
 そういい残し二人はその場を去っていく。
 二人が去るとざわざわとギャラリーが騒ぎ出した。
「今のイザーク見たか? 泣いてたぜ」
「けっこう胸でかくなかった?」
「けど、なんだよ、あのディアッカに抱きついたのは!」
「だってあの二人前から仲いいじゃん。てかデキてんじゃねぇの?」
 その騒ぎの中戻ってきたアスランにニコルは告げた。
「とんだハプニングでしたけど、ディアッカには結果オーライみたいですよ? これだけ人前で見せ付けたらイザークファンクラブも終わりでしょうから」
 言われたアスランは小さく頷く。
「ああ、そうみたいだな」
 だがアスランの脳裏にはイザークの白い胸と潤んだ瞳がチラチラとかすめて、何故だか胸がドキドキとしていた。
「アスラン?」
 不思議そうな顔をしてニコルが仰ぎ見る。
「え、あ、いや」
 そこへ教官の声が響く。
「今日の訓練は終了だ。整列っ」
 アスランはほっとして列に並ぶために駆け足でその場を動き出した。




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