if...

「イザーク?」
 病室のドアを開けると、目の前にはベッドに座り込んだイザークがいた。
「具合はどう?」
 ディアッカの問いかけにイザークは何も答えない。代わりに散らかされ放題の荒れた病室がイザークの機嫌を代弁していた。
 イザークが原因不明の高熱を出して声を失ってから1ヵ月半。その間、色々な薬が投与されたが目に見える効果はなく、相変わらずその原因は不明のままだった。苛立つイザークは毎日のように部屋中のものを投げつけて散らかした。そのうち病室の中には投げる物が片付けられてしまったが、それでも最低限必要としておかれている枕やスリッパを投げカーテンを引き裂いた。やがてイザークの病室には最低限の人間しか近寄らなくなった。唯一の訪問者とも言うべき存在がディアッカだった。
 そのディアッカも仕事が忙しく、今日の訪問は一週間ぶりだった。
「あんまり無茶苦茶するなよ。病院にいられなくなっちまうだろ」
 イザークのすぐそばに腰掛けてディアッカはその銀糸の髪を撫でる。 イザークはディアッカの袖をぐっと掴んだ。
「なに?」
 か・え・り・た・い・・・。
 音にならないまま唇を動かして訴える。病室にはキーボードで入力しモニターに文字を表して意思を表示するシステムもあったが、イザークはそれを利用しようとはしないのだ。そのせいでイザークの言葉はまったくといっていいほどに伝えられることがなくなった。
 読唇術なみにイザークの言葉を理解したディアッカは困ったような顔をした。
「そんなこと言ったって・・・」
 ディアッカの胸を拳で叩いてイザークはなおも訴える。
 かえりたい、かえりたい、カエリタイ・・・。
 アイスブルーの目尻から涙が溢れて頬を伝う。それを指で優しく拭いながらディアッカは小さくため息をつく。
「わかったから・・・何とかするから泣かないでくれよ・・・」
 抱きしめられたイザークは音もなくつぶやいた。
ひとりはいやだ・・・。
そう動いた唇はシャツに埋もれて、その言葉は伝わらなかったけれど、ほっとしたようにイザークは腕の中で目を閉じた。





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