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「悪い、忙しくて片付けてる暇なくてさ」
 玄関を先に入るイザークにディアッカは背中から告げる。50日ぶりに帰る二人で住む家に、イザークは嬉しそうな顔をしている。
 イザークの懇願から、ディアッカは何とか自宅に戻れるように奔走した。とはいっても、声が出ない以外は日常生活に支障はないので、処方される薬をきちんと服用すること、喉に負担の掛かるようなことはしないこと、病院にきちんと通うこと、を条件に自宅療養が許可された。
 イザークの姿を見ながらディアッカはほっとする。同じ一日おとなしくしているなら、病室よりも自宅の方がずっと精神的にいいだろうし、何より自分が面会時間に間に合わずに会えないということがなく、どんなに遅くなろうと家に帰ればイザークに会えるということが嬉しかった。
 リビングに入るとマメなディアッカにしては意外なほど雑然とした室内の様子にイザークは振り返った。その表情が申し訳なさそうに翳って、ディアッカは明るく言った。
「イザークがいないから、つい面倒くさくってさ。いつもはイザークが散らかすけど、オレも一人になってみたら同じようなものだな」
 その言葉にイザークはうつむいた。ディアッカは自分を気遣っている、それがわかったからだった。
 イザークは休職中だ。退役扱いではなく例外的に長期の療養が認められたのは、イザークのZAFTにおける立場のせいだった。ヤキンの英雄としてのイザークの知名度は今でもかなりなものがあり、そのイザークがZAFTをやめるということは現在のZAFTにおいては大きな痛手だった。そして、ジュール隊の隊長代理をディアッカが務めるということを二人の実力、ディアッカが緑に降格になった経緯やクルーゼ隊時代から知る軍の上層部が認めたために、いつでも戻れるように現状を維持したままでの休職となった。
 そのためにディアッカは今、それまでのイザーク以上に忙しかった。イザークが隊長をしていたときはディアッカという優秀な副官がいたから何とかなっていた仕事量も、一時的な隊長代理といことで副官など置かずにこなしていくとなれば相当な負担だった。しかも、いくら副官をしていたとはいえ、イザークにしかわからないような内容も多く、それらを療養中の本人に聞こうとはせずに、自分で調べていたから、いくらディアッカの能力が相当高いとは言ってもその時間が膨大なものとなってディアッカを忙殺していたのだ。
 す・ま・な・い。
 見上げた唇がそう動いて、ディアッカに抱きついた。驚いたディアッカはそれでも笑ってイザークを抱きしめる。
「別に気にするなよ。それより、オレが散らかしたら、イザークが片付けるっていうのはどう?」
 からかうように言って覗き込むと、笑いたいのか泣きたいのかどっちもできないイザークの顔があった。
「イザーク、そーいうときは『ふざけるなっ』って怒るんだろ?」
 ディアッカの優しさが痛いくらいに伝わって、イザークは小さく頷くとその目からぽろぽろと涙が零れた。





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