ベッドに下ろされたイザークはうっすらと目を開けた。
「あ、悪い。起こしちゃった?」
 暗闇の中、差し込む月明かりに浮かぶ輪郭。見下ろす瞳はどこまでも優しい。けれど、その手が離れると、イザークは暗闇に一人取り残されるような錯覚に襲われた。
 待ってくれ。
 そう言いたかったのに、自分はそれもできなかった。
 視線の先で立ち上がるディアッカがベッドから遠ざかる。そんなディアッカを見つめていると、ふいにイザークの中でそれまで我慢していた何か音を立てて崩れ落ちた。
 置いていかれる・・・。
 ディアッカが遠くに行ってしまう。
 一人は嫌だ。
 なのに、自分の声は届かない・・・!
 嫌だ、そんなの嫌だ!!
 イザークは突然起き上がり、背中から抱きとめるとディアッカの体を自分のほうへと向かせる。そして乱暴に口付けると、強請るように抱きついた。驚くディアッカをよそに乱暴にベルトを外すと、無理やりにズボンを引き下ろし、白い手のひらがディアッカを求めて布越しに撫でた。
「イザーク・・・?」
 突然のことに、言葉を失うディアッカの前でイザークは音に出さずに告げる。
 抱いてくれ。
「そんな、ダメだよ・・・。声出ないのに・・・喉に負担かかるようなことさせられない。・・・溜まってるなら抜いてやるよ」
 イザークが抱かれるときに出す声は、普段とはまるで違う声で。それだけに喉にだって相当な負担がかかるに違いないとディアッカは思っていた。
 その言葉にイザークは首を振って、両手でしがみついてなおも訴える。
 お前に抱いてほしい、何も考えずに・・・、お前が欲しい!
 すがる腕が、しがみつく指先が声にならないイザークの思いを伝えていた。潤む青い瞳は以前にも増して、ディアッカを捉えて離さない。
「イザーク・・・」
 唇を重ねると、漏れるのは音のない吐息。
 細い身体を抱きしめながら、ディアッカはただ名を呼ぶしか出来ない。応える代わりにイザークはディアッカの首筋に噛み付くように口付けてそのシャツを引き裂いた。
 驚くディアッカの目の前で見る見る涙があふれていく。その涙を拭う代わりにイザークはディアッカの胸に顔を押し付ける。
 イザークを支配している絶望という闇を思って、ディアッカはイザークを優しく抱きしめる。耳元に口付けるようにしてディアッカは告げた。
「わかったよ・・・。一瞬だけでも、何も考えられなくなるくらいにするから・・・。だから、泣かないでくれよ・・・」
 背に回ったイザークの指が痛いくらいに褐色の肌に食い込んだ。頷いた銀髪を抱えてシーツに寝かせると、ディアッカはイザークの手のひらに自分のそれを重ねた。
「オレがいるから。一人じゃないから、忘れないで・・・」
 その唇が白い肌に触れ、シャツのボタンに指が掛かる。
 やがて二人の影は重なり、闇がその部屋を包んだ--------。



⇒NEXT