目覚めたディアッカの目に鈍い夜明けの光が入ってくる。
酷く、体が重かった。
その身体が壊れてしまうんじゃないかと思うほどにイザークは何度も何度も求めてきてディアッカを離そうとしなかった。
まるで身体が離れた瞬間に、捨てられるんじゃないかと怯えているようにディアッカには思えて、イザークの身体をいたわりながら、それでも求められるまま、イザークが気を失うまでその身体を抱き続けたのだった。
そのイザークは深い眠りの中にいる。
泣いた跡がくっきりと残って、目は腫れていた。
イザークが療養に入ってもうすぐ2ヶ月になる。長期療養は例外扱いだったが、それももう限界が近かった。これ以上治る見込みがないなら軍を離れるしかないだろう。
もし、そんなことになったら・・・。
ディアッカは考えてイザークの頬に掛かる髪を払った。
自分も軍を辞めてイザークと二人、静かなプラントにでも移ろう・・・。そして何か仕事を探して、イザークを守っていこう、と。
この人を守るためなら何でもするし、どこにだっていける。自分にはこの人しかいないし、この人にも自分しかいないのだから・・・。
誓いのキスをその頬に落とすと、手の中で淡い銀の睫毛が震え、青の眸が現れた。
できる限り優しい声でディアッカは微笑む。その眸が恋人の顔を捉えるとほっとしたように表情が和らいだ。
「おはよう、イザーク・・・」
応えるようにイザークは頷く。
「何か、飲む?」
聞きながら立ち上がろうとするディアッカの腕をイザークは掴む。
行かないで、というように見上げる目は震えている。
「大丈夫、すぐに戻・・・」
ディアッカの語尾は驚きでフェイドアウトした。
「・・・くな・・・ディ・・・カ・・・」
それはかすかな声だった。けれど気のせいじゃなく、確かにディアッカには聞こえた。
「イザーク?」
言った本人は気づいていないのか必死に繰り返す。
「行くな、ディアッカ・・・」
今度こそ、イザークもそれに気がついてはっと目を見開いた。
紫の眸は嬉しそうに優しい光を宿す。
「ぁ・・・俺、の声・・・」
戸惑う声色は間違いなくイザークそのもので。ディアッカはそっとその身体を抱き寄せた。
「・・・よかった・・・」
心底ほっとしたように言うディアッカに腕の中のイザークは両腕で抱きつく。
「オレの名前呼んでくれて、嬉しい・・・」
そういう恋人にイザークは堰を切ったように声に出す。
「ディアッカ、ディアッカ、ディアッカ、ディアッカ、ディアッカ・・・ディアッカ!!」
そんなイザークの様子にディアッカは苦笑する。
「イザ・・・ちゃんと聞こえてるよ」
言われてイザークは涙を浮かべた青の目でディアッカを見上げる。
「ずっと、お前のこと、お前の名前を呼びたかった・・・ちゃんと好きだって言いたかった」
泣きじゃくるイザークをあやすように頬に口付けてディアッカは言う。
「声にならなくても、ちゃんと伝わってるよ、イザの気持ちは。それにもし、たとえ声が戻らなくても、オレはずっとイザークのそばにいるんだから・・・」
ディアッカの告白にイザークは泣くのを忘れて紫の眸を見入る。
「ディア・・・ッカ・・・」
「でもやっぱり、イザークの声大好きだ。名前呼ばれるのって嬉しいし。ホントよかった。でも何で戻ったんだろう? やっぱ夕べのが良かった?」
片目を瞑ってそう茶化すディアッカに調子に乗るな、とイザークはゲンコツを食らわせた。
「今週から治験中の新薬を飲み始めたんだ。それが効いたんだろ・・・!」
そっけない言い方に口を尖らせながらディアッカは殴られた頭を庇う。
「ひでーな」
拗ねるディアッカの手をとるとイザークはその瞳を見つめて言った。
「もう一つ言いたいことがあったんだ」
「ん?」
何気なくイザークを向いたディアッカの目には。
にっこりと優しく笑うイザークの青い眼があって。
「その、ありがとうディアッカ・・・」
言葉とともに頬に口付けが添えられて、ディアッカは目を細めた。照れながら、けれどしっかりと自分を向いて言うイザークが、それまでにも増してかわいいと思えて。
差し込む日の光を受けながら、腕の中にその人をぎゅっと抱きしめた。
END
2005/7/16
あとがき。
28282hitリクということで、書かせていただきました。
声が出ないということがテーマのリクだったのですが、
中途半端になってしまった気がして・・・。
切ない話になりきらなくて、なんだかな、です(苦笑)
ママレードキャットさん、せっかくリクを頂いたのに、
ご要望にお答えできたかどうか・・・すみません。
28282hitリクということで、書かせていただきました。
声が出ないということがテーマのリクだったのですが、
中途半端になってしまった気がして・・・。
切ない話になりきらなくて、なんだかな、です(苦笑)
ママレードキャットさん、せっかくリクを頂いたのに、
ご要望にお答えできたかどうか・・・すみません。