◆◆◆
煌々と灯りが灯るリビングにディアッカが足を踏み入れたのは夜明けも近い時間だった。
見るとソファにはイザークが丸まるようにして眠っていた。
「イザーク・・・」
自分を待っていたのだろう。そう思うとディアッカの胸がちくりとした。なんとか週末に休みを取りたくて仕事を無理やりに片付けていたらこんな時間になってしまった。
「悪いことしちゃったな・・・」
ソファに近づいたディアッカは、ローテーブルの上にあるPCの電源が入っていることに気がついた。画面は落ちていたが、電源を落とそうとそのキーに触れたディアッカの目に驚くべきものが映った。
画面に浮かぶ、『ディアッカ』の文字。
ぽつんと一つだけあるそれは間違いなくイザークが入力したはずだ。モニターシステムを利用したことのないイザークがどういうつもりでか、自分のPCに打ち込んだのだ。
「オレのこと呼びたかったのか・・・」
メールでも送ればいいのに。自分のせいでディアッカが忙しくしていると思っているイザークは遠慮して絶対にメールを送っては来なかった。それなのに、こんなことをするなんて・・・。
「バカだな」
けれど、その声色は甘い。
思えばイザークが声をなくしてから、その唇を読むことで言いたい事を汲み取ってはきたけれど、自分の名前を言ってくれることはなかった。家に二人しかいないのだし、多くは喋れないイザークがわざわざ名前を口にする必要はないのだけれど。たしかに寂しいことだった。どちらかというと名前を呼ばれるときは怒られることが多かったというのに、その名前を呼ばれたいな、と思ってしまうのだから、今さら自分はこの人の声が、この人のことが好きなのだと思い知る。イザークに普段どおりに呼んで欲しい。何気なく『ディアッカ』と。その一言だけでもいい、もう一度だけ・・・。
自分が見下ろした先で頬に掛かった銀髪を邪魔そうにしてそのままイザークは眠り続けている。
それともイザークも同じことを思ってくれたのだろうか。あらためてモニターの文字を見て、ディアッカはふとそんなことに気がついた。
「イザーク・・・」
優しくその髪をといて、口付けるとディアッカはそっとその身体を抱き上げた。
⇒NEXT