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 家に戻ったイザークは落ち着きを取り戻した。
 物に当たることも投げつけることもなくなって大人しくしていた。一日家にいて、読書をしたり身体を鍛えたりしていたが、病院に通う以外に家から出ることはなかった。
 ディアッカもなるべく家に戻るようにしていて、どうしても仕事が終わらなかったときは持ち帰った仕事をイザークが手伝ったりした。
「イザーク、ずっと家にいて飽きない?」
 夕食を用意しながらディアッカが聞いた。少し考えた後、イザークは小さく首を振って否定する。
「そう。ならいいんだけど」
 病室と同じようにモニターとキーボードは用意してあるのだが、イザークはそれを全く使わない。むしろディアッカとしか会話をしないのだからそんなもの必要ないのだ。ディアッカはイザークのことをすべてわかってくれるのだから。
「シホちゃんがさ、イザークに会いたがってたから、イザークさえよければ家に呼んであげようかと思ったんだけど、どう?」
 その話にイザークは大きく首を振って否定する。
 こんな姿みせられない。
 イザークの口はゆっくりと動いてそう伝えた。
「別に、シホちゃんはそんなこと気にしないと思うけど。むしろ姿を見せてやったほうが安心すると思うんだけどね」
 俺は嫌だからな。
 声もなくそう言うイザークが随分元気になってくれてよかった、とディアッカは思う。病院にいる時間が長くなるにつれ、イザークの食欲は落ちて痩せたりしたけれど、自宅に戻ってイザークの好きなものをつくってやったら食欲も戻ってきて、安心したところだ。
 今日はイザークの好きなラザニアを作る。パスタの生地をこねていてると興味深そうにイザークが寄ってきた。
「ラザニアの生地だよ。やってみる?」
イザークはコクリと頷くとシャツの袖をまくって手を出した。慣れない手つきで生地を丸めてうち始める。打ち粉が舞って真っ白になりながらイザークは一生懸命になっている。
 その姿を隣で見ながらディアッカはふと思う。このまま声が戻らなかったら、と。軍に戻れなくなったらイザークはどうするのだろう。大人しく家にい続けるわけにはいかないだろう。そうなったら自分も軍にい続けることもないのだろうな、と。
 できたぞ!
 得意そうな顔をしたイザークの鼻先には白い粉がついていてディアッカは噴き出した。
「イザーク、鼻の頭白いぜ」
 慌ててこするイザークの手は粉だらけでますます顔が白くなる。
「もういいから顔洗ってこいよ」
 笑いながらディアッカは背中を押すとイザークは洗面所に駆け込んだ。
 何気ない日常の一コマ。こんな日が当たり前に続くかと思っていたのに。ディアッカはイザークがいないのを確かめると小さくため息をついた。





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