「アウルについての記憶も消しておくようにな」
 撤収のどたばたが収まって、メンテナンスルームにやってきたネオは担当員にそういいつけた。
「またですか?」
 不満そうに言うが、彼自身それが不可欠だということは知っている。
「あぁ、すまんがな。よりよい働きをしてもらうためには仕方がないんだ」
 その言葉に思い出したように研究員は言った。
「そういえば、直前にアウル・ニーダのことを言ってましたよ」
「アウルのことを?」
 意外そうにネオは聞き返した。
「えぇ。彼は助かるのか、って。ステラのときでさえそんなこと言わなかったんですけどねぇ」
 彼の目からすれば、スティングはいつもステラに対して兄のようにして振舞ってみえて、アウルのことを気にかけているようには見えなったので、あの言葉はとても意外だったのだ。
「そう・・・アウルのことをね・・・」
 ネオはそれで理解した。彼らは同じ部屋だった。投与される薬による必要以上のエネルギーを処理するためにそういう関係だったのだろう、と。それとも面倒見のいいスティングにとってはアウルこそ危なっかしいと映っていたのだろうか。
 そんなことを無駄に考えた自分に苦笑するとネオはベッドに背中を向ける。
「後は頼んだぞ」
 彼らは駒だ。
 目覚めたときにはアウルのことは忘れているのだから、自分がそんなことを考えたって意味のないことにしかならない。割り切るように自分に言い聞かせてネオはその部屋を後にした。

 二日後、スティングは目が覚めた。
 記憶操作が複雑だったことで、いつもよりずっと長く寝かされていたが、スティングにはもはやその記憶すらなかった。
「どうだ?」
 起き上がったスティングに白衣の研究員はいつもと同じように問いかける。
「どうって、別に・・・」
 伸びをして立ち上がりながら、スティングはそっけなく答えた。
「部屋に戻っていいぞ。シャワーでも浴びたらどうだ」
 その言葉に興味なさそうにしながらも、スティングは自室へと向かう。ちらりとベッドを振り返ると、3台のそれが目に入った。自分以外に二つ。予備なのだろうか。キレイに整えられたそれを見ながら、まぁどうでもいいや、とポケットに手を突っ込むとその部屋を後にした。





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