シュン、とドアが開いて足を踏み入れる。だがその瞬間に違和感に襲われて立ち止まった。
慣れている部屋のはずなのに、何かが違う、そう思ったのだ。立ったまま視線をさまよわす。デスクとチェアのあるスペースの奥に二台のベッド。その両方が使われたままの状態で、放置されていた。
「そういえば、朝っぱらから戦闘配備だったか・・・」
おぼろげな記憶を探りながらそんなことを思い出す。だが、どうして二台使っていたのだろう、自分は。考えてみても答えはでなかった。
まぁ、いいか。
簡単に思考を停止して、冷蔵庫からドリンクを取り出す。自分の好きなブラックコーヒーと何故だか炭酸飲料が大量に入っている。
「なんだ、これ」
自分は炭酸など飲まないのに・・・。疑問がぞわり、と背中を駆け上がる気がして、なんだか気持ちが悪かった。
誰かがこの部屋にいたのか?
そう考えるが、強化人間と言われる自分が誰かと一緒の部屋だなんてありえない話だ。
じゃぁなんで・・・。考えようとすると思考に靄がかかるようになってきて、それが苦痛になってしまう。
「ああ! めんどくせー」
そういうと気分転換をしようと、シャワールームに向かう。
熱めの湯を出して頭からざぁぁと浴びる。が、背中がヒリヒリと痛んで慌てて湯を止めた。
「あ? 背中に傷? 戦闘では傷なんて受けてねぇのに」
不審に思うが、他に思い当たることは何もなかった。湯温をさげてまた浴びなおす。背中の傷は小さめのものが一面に広がっているようで、手を回して触ってみるとかさぶたになっているのもいくつもあった。
「まるでネコにでも掻かれたみたいだな」
ネコなんていないけどな。そういうと湯を止めてバスタオルで水気をふき取る。あらかた拭ったところでTシャツを羽織った。
「ああ、退屈だよなぁ」
そういうとばたん、とベッドに横になった。枕元にある雑誌を取り上げる。
「こんなの読んだか?」
なんだか記憶が曖昧だった。メンテナンスのあとはいつもそうだ。そして、そのたびにまぁいいや、と切り捨ててやりすごす。そんなことをいちいち気にしていたら自分はここに生きていることは出来なかったはずだから、それは身につけた防衛能力なのかもしれなかった。
ふと枕元に落ちている髪の毛に気がついた。
そっと指先でつまみ上げると、それは自分の髪とは違う、青い髪の毛。
「何・・・これ・・・」
青い髪がベッドに落ちてるということは、青い髪の人物がここに寝ていたということだろうか。考えるととたんに靄が広がった。
だが次の瞬間、スティングは自分が泣いていることに気がついた。
「なんでだ・・・」
ポロポロと零れ落ちる涙が止まることはない。青い髪を持つ指先がガタガタと震えた。
「あ・・・」
ふと瞼の裏に一瞬浮かんだのは、ブルーグリーンの瞳の少年。
『オレ、スティングが好きだよ』
無邪気に笑ったその髪は手にしたのと同じ空色。
「誰だ・・・?」
懐かしい、と確かに感じるのに、記憶の靄に遮られてそれ以上思い出すことができない。
背中の傷がやけに痛む気がして、スティングは自分の体を抱きしめた。
「お前は誰、なんだよ・・・」
こみ上げる胸の苦しさにうめくようにして問いかけても、答えてくれる人は誰もいない。
ただ涙が止まらなくて、スティングには理由がわからないままだった・・・・・・。
End
2005/6/24
あとがき。
CPアンケートで上位を占めたスティアウに挑戦してみました。
初めて書きました、イザが出てこない話です。
はー、難しかった!!
そして、尻切れトンボな感じで申し訳ないです。
甘い話にしたかったのですが、強化人間の二人を書くには
記憶操作の場面をはずせないかなぁと>思ったら
こんな切ない話になってしまいました。
ご、ごめんなさい・・・><
CPアンケートで上位を占めたスティアウに挑戦してみました。
初めて書きました、イザが出てこない話です。
はー、難しかった!!
そして、尻切れトンボな感じで申し訳ないです。
甘い話にしたかったのですが、強化人間の二人を書くには
記憶操作の場面をはずせないかなぁと>思ったら
こんな切ない話になってしまいました。
ご、ごめんなさい・・・><