「どーなってんだよ? アビスの回収はっ?!」
 MSを降りたスティングは、手近にいた整備員を捕まえて怒鳴りつける。
「さぁ、ばたばたしててわかんないんだよ。こっちが聞きたいくらいだぜ。一体どうなってんの?外はさぁ」
 若い整備員はかったるそうにそう答えた。
 ちっと舌打ちしてスティングはその場を早足で去る。
 あれじゃ無理だ・・・。
 優秀なパイロットとして能力を高められたスティングにはわかっていた。水中のこととはいえ、爆発した熱量とアビスの信号の消失。そのタイミングから考えたって無事だとは思えないし、その上エマージェンシー信号すら発信されてはいなかった。それは、そうする余裕すらなかった、ということなのだから。
「アウル・・・!」
 ぎりぎりと握り締めた拳を震わせて、スティングはぎゅっと目を瞑る。昨日の夜、抱きしめたぬくもりがまだこの手に残っているというのに・・・。
「スティング・オークレー、早くメンテナンスを受けろ」
 カオスの帰還を知り、担当の研究員がスティングを探し出した。
「っるせー、わかってる!」
 怒鳴りながらスティングは長い廊下を決められた場所へ歩き出す。戦闘の度に繰り返される、ルーティーンケア。
 所詮自分はMSを動かすためのシステムの一部でしかない。
 人間と同じ血の通う体を持って、人間と同じように人を抱きしめることを知っているのに。
 メンテナンスルームに入ると、無機質な繭型のベッドが3つ。一つは自分のものでもう一つはアウルのもの。そしてあとの一つは予備だと聞かされていた。
「外傷はないようだな」
 外見を一通りチェックした研究員はそのままスティングをベッドへ促す。
「なぁ、アウル、助かるのか?」
 屋根がしまる直前にスティングはぼそりと漏らした。
 その言葉を聞きつけた研究員は、「あぁ、探してるから、大丈夫だろう」と無感情に答えるだけだった。




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