映画館とショッピングモールを巡った二人はやがて一軒のレストランに到着した。パーキングから降りる二人はどこから見ても恋人同士のデートにしか見えない。
「仲よさそうですよね」
 一日追いかけているメンバーは皆同じことを思っていた。
 誰がどう見てもいやいや付き合ってるという感じはしない。それどころか楽しそうに笑う顔は本気で付き合っているとしか思えないほどだ。
 おかげでイザークの機嫌はどんどん悪くなり、アスランとニコルがハラハラしながら宥める役回りになっていた。
「それで、いつ実行するんだ?」
 アスランの問いかけにミゲルは腕を組んで考え込む。
 レストランのパーキングが見える道路上に定員一杯に乗り込んだエレカを停めて偵察メンバーは遠巻きにディアッカのデートを眺めていた。
「おそらくここで食事をしたら相手を送って終わりだろう、門限もあるし」
 冷静な指摘はもっともでちらりとイザークを見たミゲルはやれやれとため息をついた。
「たしかにここしかないだろうな。店の中で揉め事をするのはまずいし、やっぱ出てくるまで待つか?」
 イザークは答えなかったがそれ以外にタイミングなんて考えられない。このまま何もせずに帰ってしまうというのも考えられなくはないが、一日中みんなで追いかけた挙句にそんな逃げ腰じゃ笑いものになるだけでイザークはもはや逃げられなかった。

「それにしても、ホントに謎だよなぁ」
 ラスティが使い走りで入手してきたファストフードのハンバーガーをかじりながらミゲルが改めて言う。
「何が?」
 ポテトを頬張りながら聞き返すのはラスティ。
「事情があるにせよイザークに何も言わないなんて怪しすぎるじゃん」
 ディアッカがイザーク限ってダメダメなのは今に始まったことじゃないし、イザークのためにならどんな犯罪だってやらかしそうな勢いのベタ惚れっぷりなのに、そのイザークに隠し事をして女の子とデートしてるなんてディアッカの言動からしたら摩訶不思議としか言いようがない。
「ホントは断るつもりだったのが、自分でも予想外に惚れちゃったから言い出せないとか?」
 まるきり他人事で笑うラスティにアスランはイザークを気遣いながらやんわりと否定する。
「何か考えがあってのことだと思うけど・・・。ディアッカに限ってイザークを裏切るなんて」
「意外と生き別れの妹とか?!」
 どこまでも面白がるラスティにイザークがうんざりと言葉を返す。
「ディアッカに妹なんていないのは俺がよく知っている」
「だよなー」
 ミゲルは軽い調子で受け流すがイザークはすでに心ここにあらずだ。

 ディアッカが本当に見合いの相手を好きになってしまったというのなら、自分の存在は邪魔なんじゃないだろうか。エルスマン家の跡取りとして見合い相手と結婚するのなら自分という恋人の存在は知られてはならないはずで、もしここで出て行ったことで迷惑がかかるようなことになればこれからさきどんな顔をしてディアッカと同室で過ごせばいいんだろうか・・・。

「おい、出てきたぜ!」
 監視していたミゲルの声にイザークは現実に引き戻される。
 渡されたスコープを覗くとレストランのエントランスには二人の姿がある。少女に手を差し伸べて階段を下りるディアッカの姿にイザークの胸がちくりと痛んだ。

 嫌だ。

 やっぱりディアッカが他の人間にそんな顔をしてるなんて自分は耐えられない。
 きれいごとを並べれば、そもそも自分たちの関係なんて過ち以外の何物でもないけれど、だけど、だからってこの気持ちが偽りだとか他の人に比べて劣るだなんてあるはずもなかった。


「ディアッカ!」





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