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「――そう、やっと決めたのね」
 居住まいを正した二人の青年の前でエザリア・ジュールはそう言うと嬉しそうに微笑んだ。
「はい」
「もうずっとイザークは結婚したようなものだったもの、今さら驚いてなんていないわ。それよりも・・・嬉しいわ、あなたたちが正式に結婚できる時代がやってきて」
 エザリアに言われてディアッカも照れくさそうに笑う。
「エザリアおばさん・・・」
「もちろん反対なんてしないわよ、おめでとう・・・二人とも」
 その言葉に二人とも安心したように目を合わせて頷きあった。


「それにしても思ったよりもずっと早かったのね」
 エザリアの言葉にディアッカはポリポリと頭を掻いた。
 新婚姻法の施行からまだ一週間と経っていない。この法律が二人に無関係だとは思わなかったけれど、まさかその週末に挨拶に来るとはさすがのエザリアにも予想外のスピードだった。
「まぁ善は急げって言うし」
 その言葉に可笑しそうに義母となる人は笑う。
「その様子じゃ言い出したのはディアッカね。まぁ当然かしら」
 昔からよく知る人の言葉は容赦がない。一時の感情に駆られた行動はイザークのほうが素早いけれど、先まで考えて動くならばフットワークの軽さはディアッカの方が数段上なのだ。
「それで、子供のことはどうするの?」
 率直にエザリアは二人に訊いた。
 結婚を決めたことを報告し、祝福されてほっとした二人は予想通りの問いに慌てる様子はなかった。
 結婚するにあたっては同居とは違いさまざまな問題がでてくるが、同性同士の結婚において一番の問題となるのはその点だった。
 婚姻法において定められているどちらかの遺伝子を引き継ぐ子を成すということは、同性結婚の場合、自らが婚姻の相手とは別の人間との間に子供を作るということを意味している。直接であっても人工授精であっても。

「それについてはお願いがあります」
 ディアッカがそう切り出してイザークは心配そうに見つめた。
「お願い? 何かしら」
「エザリアおばさんの卵子を提供してもらいたいんです」
「私の?」
 心底驚いた顔でエザリアは二人の顔をみた。
「はい。代理母制度を使ってエザリアおばさんとオレの子供を作るつもりです」
「じゃあもう一人は・・・」
 その言葉を引き継いでイザークが頷いた。
「俺とディアッカの母上の組み合わせです」
 つまり、二人の兄弟であり、お互いの二世である子供が生まれることになる。
 イザークもディアッカもその気になれば女性との間に子供をなすことは可能だろう。けれどそれを選ばないのは彼らがコーディネーターだからだ。子供を作るなら遺伝子に操作を加えるのが前提であり、そうだとすれば人工授精という方法になる。だとしたら、どこかの女性を卵子提供のためだけに探すよりは・・・と二人が考えたのがこの方法だった。
 子供が産めない女性が自分の母親の卵子提供を受けて人工授精をするのは地球でもよくある方法だが理屈としてはそれと変わらない。結婚相手とは子供が作れないからその母親との間に子供を作るのだから。
「でも相性の問題は・・・」
 コーディネーターの社会において遺伝子操作の弊害として受精率が極端に低くなるという問題があった。それにより婚姻統制という法も施行されていたほどだ。
「それも調べました。母上の遺伝子データとディアッカの相性は合格でした。もちろん俺の方も」
「じゃあきっとあなたたちの相性も問題ないのね」
 男同士だから相性なんて調べたことはなかったが、母親との相性がいいのならその子供との相性だって悪いはずはない。つまりイザークとディアッカはもし異性同士であったなら何の問題もなく結婚できていたはずということになる。
「やっぱりイザークを女の子にしておくべきだったかしら」
 悩ましくエザリアは言った。コーディネイトするときにエザリアはぎりぎりまで子供の性別を迷ったのだ。その末に家のあとを継ぐという面から男の子を産むことにしたわけだった。
「母上・・・」
「冗談よ、イザークが男の子でよかったと思ってるもの、後悔なんてしてないわ。それに同性でも結婚できるようになったわけだし、あなたたちはちゃんと血を残すことも考えてくれたんだから」
 これで文句を言ったら罰が当たるわ、そうにこやかにエザリアは微笑む。
「ですよね、オレみたいな男前な息子もできるわけだし」
 調子に乗ってディアッカが言うとイザークがそのわき腹に拳を入れた。
「・・・ってぇ」
「母上、こういった形になってしまいますが、俺はジュール家の跡取りとしてきちんと役割を果たしていくつもりです・・・」
 跡取りとして、次の世代へ血を受け継ぐこと。それはエザリアが望むことではあるけれど、一番に望んでいるのは息子が幸せになってくれることだ。
「・・・ありがとう、二人とも。そこまで考えてくれるなんて私は幸せ者だわ」
 自分の息子が幸せになるならば、家のことはあきらめるつもりでいた。それが思わぬ形で叶えられてしまうというのだから、もう何も言うことなどありそうもない。
「それじゃあ・・・」
「ええ、出来る限りのことは協力するわよ。あなたたちの幸せのためにね」
 二人は改めて頷きあい、それをみたエザリアはなおいっそう嬉しそうに笑った。






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