「どうなった?」
 ラスティの問いかけにミゲルはスコープを放り出すようにして手渡した。
「え、何」
 大急ぎで覗き込むといつのまにか入れ替わったのかディアッカの隣にはイザークがいて、あの女の子は二人から少し離れて立っている。
「なんだ、これ」
「どうかしたんですか」
 ニコルの問いかけにラスティは首を傾げた。
「修羅場にはならなかったようだな」
 アスランは言ってほっと胸をなでおろしている。主席の少年は視力も人よりずっといいらしい。
「修羅場どころかラブシーンだぜ」
 イザークが取り乱しでもすれば見ものだと思っていたのにそんな展開にはならなかった。それどころかどういう話の流れなのかいきなりイザークは自分からディアッカにキスをしたのだ。
「はぁ?」
「あぁいうのを実力行使って言うのかな」
 どうやら全部見えていたらしいアスランの言葉にミゲルは面白くなって笑う。
「たーしかに!ありゃ最強の見せつけだな。人前でキスするなんてさ」
「えええっ」
「ホントですかっ」
 声を上げたのは状況を知らないラスティとニコルで二人は同時に顔を見合わせる。
「うん・・・」
 そんなの見たくなかったのにという顔でアスランは認めた。
 人前でキスするなんてイザークにしたら考えられない状況だ。けれどそんなことをしたというのなら本当に実力行使なのかもしれない。
「じゃあ結局どうなるんですか」
 ニコルの声でラスティは再びスコープを覗く。アスランは目を凝らしてパーキングを見ていてミゲルは聞くまでもないという顔で振り向きもしない。
「つまんないなー、楽しそうに笑ってるよ三人で」
 がっかりした様子で言うラスティにニコルは苦笑した。
「それが目的だったんだからハッピーエンドでいいじゃないですか」
「確かに、イザークが大暴れするようなことにならなくてよかったよ」
 心底ほっとしたように言うアスランにミゲルは見てみたかったぜ、とまだ言っている。
「じゃあ帰りますか、そろそろ門限も近いですし」
「そうだよ、帰らないと。門限破りして罰掃除なんてやだよ!」
 スコープを投げ出して慌て出すラスティにアスランが状況を知らせる。
「二人でエレカに乗るようだから、彼女は迎えが来るのかな」
 アスランの言葉のとおりに少女はレストランのエントランスへと戻っていく。
「結局オレらはほったらかしか」
 散々からかうことしか考えていなかったくせにミゲルはめちゃくちゃなことを言う。
「それでいいんじゃないか」
 ミゲルだって本心で言っているわけじゃないと分っているアスランはラスティを促した。
「急ごう、時間がない」
「オッケー」
 そしてその場から四人を乗せたエレカは走り出した。




「まさか一人でストーカーしてたわけじゃないよな?」
 自分は迎えを呼ぶから、と家まで送ろうとしたディアッカを断ったヴィオーラはレストランへと戻っていった。ディアッカとしても寮の門限の手前、無理することも厳しくて結局その言葉に甘えてイザークと二人で乗り込んだエレカのアクセルを踏む。
「ストーカー? 人聞きが悪いな」
「だってずっと後つけてたんでしょ?」
 好きな人の後を一日中付け回すなんてストーカーと呼ばれても仕方がない。
「・・・ミゲルに無理やり連れ出されたんだ」
 こんなこと本当は不本意なのだと隠しもしない顔にディアッカは苦笑した。
「てことはいつもの面子に全部見られてたわけか、さっきの」
 イザークからの強引なキス。
 ヴィオーラが仕組んだとはいえまさかあそこまでするとは思わなかったディアッカにしてみれば、棚からぼた餅みたいな出来事だった。
思い出したイザークは真っ赤な顔をしている。改めて言われて羞恥に襲われたらしい。
「うるさいぞ、くだらないこと言ってないでとっとと走らせろ」
「わかってますって」
 エレカのスピードは自動運転で最短の時間でアカデミーに到着するように設定されている。
「それよりさ・・・」
 イザークに話しかける声のトーンは気のせいじゃなくすっかり甘いものになっていた。
「もう一回イザークからキスしてくれない?」
 あんなこと滅多にないから確かめておきたくて、といけしゃあしゃあと言いのけるディアッカにイザークはキッとブルーの瞳で睨みつける。
「冗談じゃないっ!」
「つまんないな、たまには素直になってくれたっていいのに。じゃないと次の見合いで本気になっちゃうかもよ」
 オレのことちゃんと捕まえておいてよ、と言ったディアッカにイザークはそっけなく顔を背けた。
「生憎だが俺からのキスは希少価値がウリだからな」
「じゃあいいよ、オレからもらうから」
 そして強引に顔を向けさせたイザークにキスを押し付ける。
「・・・捕まえておくのはお前の方じゃないか?」
 にやりと笑って見せたイザークにディアッカは慌てて確かめた。
「まさかイザークにも見合いの話なんてないよな?!」
「さぁ」
 とぼけるイザークに、勘弁してよ、とディアッカは懇願する。
「なら、やっぱりイザークはしっかり捕まえておかなきゃ」
 そうしてもう一度重なる口づけにイザークは嬉しそうに笑った。
「やっぱりお前の隣にいるのは俺以外にはいないな」





FIN.



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初出【Catch me!】2007.3.4