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「検査の結果がでましたよ」
 診察室の隣のベッドで点滴を受けてたオレとイザークがいるところへドクターがやってきた。
「どうなんだ?」
 イザークの言葉に敬意なんてない。いつでもどこでもえらそうだよなー、オレのお姫様って。
「インフルエンザのP3H型の亜種だね」
 検査表を見ながら告げる。その言葉にイザークはドクターを見た。オレは背中向けられたから表情はみえないけど、 いぶかしんでるぞ、この背中は。
「たかが風邪でこんなことになるのか」
 あ、やっぱり、信用してないな、こいつ。
 こんなこと、といわれたオレは発熱が40度近くになり、とりあえずの点滴をされていた。ふらふらしてて情けないけど、 こんなことって、その言い方はないんじゃないか。オレは病人なのによ。
「風邪とインフルエンザは違います。コーディネーターはあまりここまでなることはないですが、たまに大当たりすると」
「大当たり?!」
 語気を荒げてイザークが聞き逃さずにつっかかる。
 あぁ、それ以上余計な失言しないでくれよ、センセイ。ちょっとオレ、フラフラしながらイザーク止める自信はないからさ。
「あ、いや、その、ごくまれにウイルス抗体に隙間があってそのままの状態のDNAをもつ人だと、ナチュラル並みに  ひどい症状になることがあるんです」
「この時代にか?」
「ええ。インフルエンザのウイルスは少しずつ型を変化しながら進化しているので、完全に封印するのは難しいんです。
ただ、それで死に至るようなことはありませんから、古い時代とは違って」
 二人の会話が続いてる。要するにオレは重症だってことはぼーっとしながらでもわかった。
 しばらく大人しくなったイザークを横目に、ドクターはオレに向くと告げた。
「このまま入院すれば3、4日で回復するでしょう」
「…入院?」
 突然言われて一言聞き返すのがやっとなオレ。うー、マジやばい。
「ええ。このまま手続きをしますから。着替えはルームメイトにでも持ってきて……」
「それは…勘弁、してくれよ」
 ドクターの言葉をさえぎってオレはなんとか言った。
「無茶言わないで。その状態で自分の部屋に戻っても辛いだけでしょう。環境だって十分じゃない。ルームメイトだって いるわけだし…」
 ドクターの言うことは正しいけどさ。
 それはわかるけど、でも入院なんてしたら、イザークに会えなくなるじゃん。そんなのオレにはきっついよ。寝てるより イザーク抱いてたいくらいだし、薬よりキスの方が効きそうだもん。できるかどうかは別として。
 しばらく黙っていたオレの恋人は、予想外のことを言い出した。
「そのウイルス抗体があれば移ることはないのか?」
「はっ?」
 突然のことにドクターの声は半オクターブくらい高くて間抜けだった。笑えない状況なのがちょっと惜しい。でも、そんな ドクターとは違ってオレはイザークの言ったことがわかってしまった。というか、同じこと考えてくれたわけ?ってうれしくなった。
「俺に抗体があれば、移る心配をする必要はないんだろう」
「それはそうですけど。しかし…」
 困った様子のドクターにはかまわずにイザークは続けた。
「ならすぐ検査しろ」
 悪いな、センセイ。でも勘弁してやってよ。そいつ、悪いやつじゃないからさ。
 オレの願いが届いたのか、ドクターはナースに指示を与えた。
 検査室に向かうイザークを遠くに眺めながら、自分の熱がさらに上がった気がした。体中がほんわりとした感覚でシアワセな 心地になってくる。
 やっぱ、わかってくれたな、オレの気持ち。お前も同じと思っていいのかな?




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