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 イザークがワクチンを打つことを条件に、っていうかその場でワクチン接種まで要求を通して、オレの自室療養は かなり強引に許可が出された。あそこまでしてだめだとは言えないよな。サンキュ、センセイ。
 それから二日経つけど、その間のイザークはかなり忙しそうだった。オレが寝込んでいるからって、仕事の質量が落ちるなん て絶対許せないから、いつもの予定をこなし、さらにオレのための時間を作ってくれてた。
 けどそんなそぶりは微塵も見せないのがとてもイザークらしいと、病気の身ながら、いとおしくなる。
 抱きしめられないのがくやしいな。

「イザーク、メシは?」
 直接病院に寄って戻ってきたのだろうと思って、聞いてみる。
「そんなもの、いつでもいい」
 言いながらオレの手から空いたグラスを取り上げる。
 なんだかいつもの逆だな、と思う。ひとつのことをやり始めるとほかに気が回らなくなるイザークをいつもフォローしているのは 自分の方なのに。意外な気がするけど、なんだかそれが心地いい。発熱で精神的にもダメージがきてるのかもしれない。
 危なっかしいはずのイザークがとても頼もしく思える。っていっても、こいつも一応トップガンのエリートなんだけどな、表向きには。
「何がおかしい」
 突然笑ったから、不思議そうにイザークが聞いてくる。
「別に」
「熱の具合はどうなんだ」
 腕組みをして見下ろしながら、言われた。
「あぁ、えっとわかんない…けど、下がった、かな」
 適当に答える。ただそれは正しくないんだろうと予想はつくけど。上半身だけ起き上がってる状態でも、なんだかフラフラしてるし。
「だったら着替えろ。昨日の夜から着たままだろうが」
 ぶっきらぼうに言い放つ。
「ああそうだな。着替え…」
 言いながらベッドから立ち上がろうとしたら、ぐらり、と視界が傾いた。
「ディアッカ!」
 うわっ、やばっと思うより前に、がしっ、と細い腕に抱きとめられた。気がつけば体が半分ベッドから乗り出した状態だった。
こんなに力あるんだ? いつも抱きしめるのはオレの方だから、気づかなかった。伊達にパイロットしてないんだな。
「このばか! ひどい熱じゃないか!」
 言いながらベッドの上に俺の身体を戻す。  あー、ばれちゃった。でも、イザークに怒られるのは好きだからいいや。
「悪い、ちょっと」
「ちょっとじゃない!」
 さらに怒鳴られる。
 ああ、だからそうじゃないって。
「いや、ちょっと、このまま」
 イザークの腕の中に抱きとめられながら、俺は半分熱に浮かされながらつぶやいた。
「…抱いててよ」
「なにっ?」
 聞きなれないセリフに明らかにイザークは戸惑っている。
「だって、お前に抱きしめられるなんて…けっこー気持ちいい、から」
「何をばか言ってる」
 激しい口調になりながら、言ってくる。いつもならその辺で機嫌損ねないように引き上げるけど、いまはちょっとそういう調整 できそうにないや。
「ばかでいーだろ。オレ病人なんだから」
 言いながら、だるくなって目を閉じた。イザークの軍服をとおした体温がひんやりとして気持ちいい。
 ちょっとの間イザークは何も言わなかったけど、急にオレを身から離した。
「あぁ、もう終わりか…」
 ちょっと物足りない気もしたけど、仕方ないや、とイザークを見ると軍服の上着を脱いで自分のベッドへ放り投げた。
 そしてオレのすぐ横の位置へ座りなおす。
「…汗かいてるから、知らないからな」
「え?」
「まだシャワー浴びてないから」
 熱のせいか、オレの理解の速度はいつもよりぜんぜん遅かった。それが汗臭さを気にしてるってことだと気づいて オレはイザークの胸の中へゆっくり倒れこんだ。
「平気。オレのほうが汗かいてるから」
 言いながら、まぶたが重くなる。
「そうか」
 短く言って、イザークは受け止めるようにしてオレに細い腕を回した。アンダー越しに伝わるイザークの鼓動が心地いい。
 あぁ、イザークって細いけど、やっぱ男なんだな。オレのことちゃんと抱きしめてくれてるし。
 ふわふわとする意識の中でイザークがオレの額にキスをしたような気がした。
 これって夢? 現実? 境目があいまいだ。
 こんなことがあるならたまには病気になるのも悪くないかも。あぁ、でもやっぱり病気はよくないよな。
 オレからキスもできない状況じゃん…。早く治して…オレの姫に今日のお返しをしてしてやろう。
 だんだん朦朧としてくる。
 やばい、熱上がったかな。また怒られるなー…
 イザークの腕の中でオレの意識はそこで途切れた。




END 
  


2004/12/14





あとがき

初めて一人称に挑戦してみました。そして、視点切り替えにも挑戦しました。
こちらはディアッカ視点のストーリーです。
途中まで書いていた本編を大幅に書き換えました。
甘えるディアッカというお題ですが、うちのイザークは乙女なので、
それに甘えるにはディアッカに病気にでもなってもらおうという単純な発想で生まれました。
書き始めたら、一人称も楽しかったですが、やはりこの長さが限界だと思います。
読み比べた感想などいただけると嬉しいです。