squall
「なんなんだ、これは」

 潜入したオノゴロ島。
 足つきに関する情報は皆無で、無駄に時間だけが過ぎていく。
 遅めの昼食を摂った後、二組に分かれて島の沿岸部を探索していたとき、それは突然にやってきた。
 何の前触れもなく突然に空が翳ったかと思うと、それからあっという間に大量の水が空から落ちてきたのだ。
 雨と呼ぶにはあまりに激しいそれは、プラント育ちの自分たちにとっては経験したことのない、知識の上での天候だった。
「…って、スコールだろ。イザーク、あそこ!洞窟・・・」
 被っていた帽子を気休め程度に雨避けにしながら、ディアッカが指差した方向に二人は走り出した。
 思っていたよりも遠かったそこにようやく辿り着いた頃には、二人とも全身ずぶ濡れだった。
「こんな雨・・・非常識だ!」
 濡れ鼠、そのままの様子でイザークは悪態をつく。いつまでも行方のわからない足つきの存在だけでも苛立つには充分なのに、こんな雨にあってその機嫌は最悪だった。濡れた帽子を地面に叩きつけて、イザークは壁を蹴り飛ばす。
「いいから、服脱げよ。絞れるだけ絞って乾かさないと・・・風邪ひくぜ」
 ディアッカはさっさと上着を脱いで滴る水を絞り出しているがイザークはそんな気分じゃなかった。
 ねじれた作業着を見ていると、エリートとして順風満帆だった自分が、無駄に足止めをくらっていることを思い出してイライラしてくるのだ。
「俺はそんなヤワじゃない。雨くらいで風邪なんてひくか」
 腹を立てて言うイザークにディアッカは小さくため息をついた。自分の作業着は上着を地面に広げて、ズボンも脱いで水分を絞り出しながら。
 やがて、自分の作業をすっかり終えたディアッカは、まだ濡れたままの作業着を着ているイザークに向かう。拗ねたイザークはびしょびしょのまま壁に寄りかかって、まだ止みそうにない雨を睨みつけていた。
「イザーク」
 声をかけてもイザークは振り向こうとしない。
 仕方がないと、ディアッカはイザークの上着を脱がせにかかる。
 勝手に襟元のジッパーを下ろそうとするディアッカに、イザークは腕でそれをはねつける。
「なんだよ、それ」
 せっかくの親切を、とディアッカが文句を言えば、イザークはむっとした視線を向ける。
「勝手なことをするな!」
 それに小さく息をつくと、ディアッカはイザークをごつごつとした岩の壁に押し付けた。
「意地張ってるのは勝手だけどな、後で体調崩して作戦に支障をきたしたら、それこそアスランにバカにされるぜ、自己管理がないってないとかなんとかって」
 アスラン、の名前にバカ正直な反応をするイザークにディアッカはそれこそ深くため息をつく。ここまでわかりやすいともう何も言う気にはならないけれど、最悪の状況を回避するためなら利用するしかなかった。
「それでもいいなら放っておくけど・・・でも風邪引かれて困るのはオレだから、やっぱり勝手にさせてもらうぜ」
 言ってディアッカはイザークの上着を無理やりに脱がせた。




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