べったりと重く張り付いた上着の袖を全て引き抜くと濡れたイザークの白い腕が現れる。すっかり温度の下がったそれは、ひんやりとしていてディアッカは顔をしかめた。
「・・・こんなに冷えてんじゃん」
 不満そうなディアッカの口調にイザークはその手を払うと、自棄になって自分でズボンを脱ぎ捨てた。だが脱いだからといってイザークがそれをどうにかするというわけではなく、結局はディアッカの仕事になる。当然のようにそれをさせておいてイザークは相変わらず入口から外を見ていた。
「イザーク?」
 すっかり仕事を終えてディアッカはいつのまにか座り込んでいるイザークに近づいた。よく見てみればイザークの唇は色を失いかけて、寒さを堪えるようにきつく唇をかみ締めている。
「おい、イザーク・・・」
 肩に手をかけて無理やりに振り向かせるとすっかり冷たくなった頬に濡れたままの髪が張り付いていた。
「・・・なんなんだ、このオーブっていう国は。足つきを庇うし、無茶苦茶な雨は降るし、急に気温は下がるし・・・」
 ぶつぶつと文句を言い続けるイザークにディアッカは苦笑する。
「寒いなら寒いって言えよ」
 青い、地球の海の色をした瞳をじっと向けてイザークはなおも文句を言う。
「・・・わかってるならなんとかしろ」
 高飛車な物言いに軽く肩をすくめると、ディアッカは背後からイザークを腕の中に攫った。
「着火道具もないから、今はこれで我慢しろよな」
 ぴったりと背中を寄せてイザークは、ただじっと自分より体温の高いディアッカのぬくもりを少しでも感じ取ろうとして大人しくしている。そんなイザークにディアッカはそっと耳元に唇を寄せた。
「ディアッカ・・・」
 抗議するような声にそれでもやめようとしないでディアッカは白い首筋に口付けを落とす。そしてびくっと敏感に反応したイザークにほくそえむ。
「火種、あったの思い出した」
 低く耳元でささやく声にイザークは背中を駆け上がる甘い痺れを自覚してぎゅっと目を瞑った。
「なら、早く火をつけろ」
 口調を荒げて言うイザークに口元をにやりとさせて、イザークの首を後ろに向かせてディアッカは聞く。
「どんな火種だか聞かないの?」
「・・・この状況でおまえの考えることなど他にあるか」
 言ってイザークはディアッカを睨みつけると、ふっとその目蓋を閉じた。空色の瞳は隠されて、白い、扇情的な喉のラインがディアッカの理性を奪い去る。
「さっすが、イザーク」
 満足そうにディアッカは笑うと、その白い喉元に噛み付くようなキスをした。

 冷えた体を温めるには、お互いの体温が一番で。
 その熱を上げるには体の奥に潜む欲情という火種を利用しない手はない。
 
 やがて------。
 しばらくは止む様子のないスコールの音に混じって、その洞窟の中に、甘く激しい水音が低く響いた------。
 







2006/2/1