ザフト軍ジブラルタル基地。
海に面した大規模な拠点基地は、たくさんの軍艦やMSが出入りして騒がしい。
だが、広い基地の中には自然のままの岸壁や砂浜を残している部分もあり、休息を求める兵士がくつろぐこともあった。
「イザーク、早く来いよ!」
赤い、エースパイロットの軍服を着たままでディアッカは砂浜に下りると早々にブーツを脱いでイザークを振り返った。
「お前は犬か・・・」
脱いだブーツも投げ出して波打ち際へと走るディアッカの背中にイザークはつぶやく。しばらく澄ましてそれを見ていたイザークだったが、サラサラとした砂に足を取られ危うく膝を突きそうになって、あきらめてブーツを脱いだ。
熱を持った砂が足の裏に触れて、思わず片足を上げかける。だが、ゆっくりともう一度足を下ろすとじんわりとした温かさが地球の生命を感じさせてなんだかくすぐったく思えた。
さくさくとディアッカを追って歩きながらイザークは波打ち際までやってきた。
「イザークも入れよ、すっげー気持ちいいぜ」
無邪気に言う同僚は、すでに軍服を脱ぎ捨ててアンダー姿で膝の辺りまで海に入ってしまっていた。一瞬迷ったイザークだが、どうせここにいてもすることはないのだから、と思って同じように軍服を脱いだ。
その姿を見ていたディアッカは嬉しそうに笑うと、波打ち際に戻ってイザークの傍までやってくる。
「ほら」
当たり前のように手を差し出すディアッカに、イザークは迷いながら手を預ける。そしてゆっくりと寄せては返す波の、そのぎりぎりの位置に立った。そのまま遠く水平線へと目を向ける。
「これが海か・・・」
「そうだよ。今さら何言ってんの?」
地球へ落ちてこの方、海など飽きるほど見ているのだ。なにせ基地の周りは海という環境なのだから。
だが、プラントに海はない。海に似せた波のある巨大な湖はあるが、塩分を含んだ海水は腐食を招くという理由からその湖水は淡水なのだ。だから、こんなふうに海に入るという体験はプラントに生まれ育った二人にとってはじめてのことだった。
足を止めたまま目を閉じて深く息を吸い込むと、潮の匂いが鼻腔に広がった。
⇒NEXT