そんなイザークを面白そうにディアッカは眺めていた。
 すると突然声が上がる。
「うわっ」
 大きな波が寄せて、イザークの立っていたところまで海水がやってきたのだ。不意打ちを食らって足が濡れたイザークは驚いた顔をして足元を引いていく波を見た。
「油断するからだよ」
「そんなこと言ったって、さっきまであの辺にしか来てなかったぞ」
「これが自然ってやつなんだろ。プログラムされた機械じゃないから予測なんてつくわけないって」
 そしてイザークの手を引いてディアッカは先へと進もうとする。
「ディアッカ!」
 躊躇してその場に立ち止まろうとするイザークをディアッカは無理やり波の中へ連れ込んだ。
「ここまできて何怖がってんだよ」
「別に怖がってなんかない」
 ディアッカの腕を振り払ってイザークは一人で立つ。海水はようやく膝に届くくらいの深さだったが、波がザブザブと襲ってくるのが何だか不思議だった。
「じゃぁ、何で入ろうとしないわけ?」
 ディアッカにはイザークが何を考えているのかはわかっていた。
 イザークの顔に包帯は既にない。無理を押して戦闘に出てそのまま地球へと落ちたのだが、コーディネーターのありがたみをこれほど感じたことはなかった。イザークの傷の治りは予想以上に早くて、ジブラルタルに着いて10日もしたらほぼ完治したのだ。だが、イザークは傷を消すことをしなかった。何を思っているのか・・・。おそらく復讐のためだろうと思う。人一倍プライドの高いイザークがストライクに、ナチュラルの乗るMSにやられたなんて屈辱以外の何物でもないはずだから。
「気が乗らないだけだ」
 ぼそりとイザークは言うがそんなのが言い訳だってことは明らかだった。イザークが本当に気が乗らないというのなら、誘った時点で断るはずだから。部屋をでてこんなところまでやってきて、ブーツを脱ぐなんて気が乗らないならするわけがない。
「ふぅん・・・」
 イザークはずっと引きずっているのだ。ストライクをすぐにでも討ちたいのに、今はこのジブラルタルで指令待ちという名目の謹慎状態なのだから。ずっと基地の中の限られたエリアで過ごしているとディアッカだって退屈すぎてつまらないことを考えそうになるのに、今のイザークだったらなおのこと。ストライクにやられた自分を責めて、後悔して、感情をくずぶらせているに違いなかった。事実、この数日イザークの食は細くなってきているのだ。


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