「どうしたんだ、これ」
スイカ模様の折りたたまれたピーチボールとおぼしき物を取り上げながらイザークが尋ねる。
「店のおばちゃんが海に行くって言ったらくれたんだよ。売れ残りとかオマケとからしいけど」
それにしたって随分な量だ。きっとディアッカは得意の人当たりのよさでそのおばちゃんに気に入られてしまったんだろう。そのときのお調子者ぶりが想像できてイザークは笑った。
「男が二人でこんなものどうするんだ」
水鉄砲をクルクルと回すディアッカにイザークはあきれる。
「本物の銃扱ってるのに、水鉄砲ってのも笑えるな」
おもちゃの中から浮き輪を取り出してディアッカはあっという間に膨らますと、それを枕代わりに寝転んだ。
「あぁ、気持ちいー」
目を瞑ったディアッカをイザークはちらりと横目で見る。
結局ディアッカは何も言わないままだ。
海に行こうと言い出したのだって理由なんてないと言っていたけれど、本当は自分のことを心配しているんだということはイザークにもわかっていた。
まだ時々夢に見る。ストライクのソードが自分のコクピットの正面から襲う夢を。そのたびに飛び起きる自分にディアッカは何も言わないで、ただ黙って抱きしめるだけだった。でもそのことにどれだけ救われているのか、ちゃんとお礼を言ったことなんてなかったな、と今さら気がついた。けれど、何をどう言っていいのかなんてイザークにはわからなかった。
何も言わない二人の間に波の打ち寄せる音が静かに聞こえる。
しばらく黙って空を眺めていたディアッカに、イザークは突然立ち上がって告げた。
「決めた。こうなったら徹底的に遊ぶぞ」
そして手にしたビーチボールを膨らまし始める。
「勝負だ、ディアッカ。どっちが先にこれを取れるか」
「って、オレはアスランじゃないんだぜ、勝負ってさー」
すると見下ろしたイザークは笑う。
「俺に勝てたらキスの一つでもしてやる」
ニヤリ、と笑うイザークは何か吹っ切れたように思えてディアッカは安心した。
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