それでもゲホゲホとむせ続けて顔をしかめているディアッカにイザークは冷たく言い放つ。
「水飲んだくらいでいつまでも騒ぐな」
「だったらイザークも飲んでみろよ。マジで塩辛いんだって」
するとイザークは興味を持ったのか両手で海面を掬うと、それに口をつけてごくり、と飲んだ。
「っ・・・げほっ・・・っ・・・」
一瞬後に後悔したが、時すでに遅しだ。濃度の高い海水を思い切り呑み込んだイザークは強烈な塩辛さに喉を締め付けられるような感覚を覚えた。
「ほら、言っただろ、洒落にならないって」
ディアッカの指摘にイザークは顔をしかめるとふいっと向きを変えてしまう。
「おい、どしたんだよ?」
慌てて腕をつかもうとするディアッカを振り払い、イザークは砂浜へ向けて泳ぎだす。
「水持ってきてただろ、お前」
海に来るにあたってディアッカは荷物を一通りまとめて持ってきていたのだ。その中にはタオルやらランチボックスやらやたらと物を詰め込んでいて、確かにミネラルウォーターのボトルも入っていた。
「あるけど・・・なんだよ、イザークオレより駄目じゃん」
後を追いながらディアッカは笑った。
バシャバシャと水を掻きながら二人はあっという間に砂浜に辿り着いた。ぽたぽたと全身から水を滴らせながら、二人は荷物の近くにどかっと座った。ゴクゴクとミネラルウォーターを飲みながら、イザークは頬に張り付いた髪を払う。
「・・・美味いな・・・」
ぼそり、とつぶやいたイザークの横顔をディアッカは見つめる。遠く、海と空の境界を眺めているその顔は本物の太陽の光を浴びて、すごくきれいだった。たとえそこに禍々しいほどの傷跡があったとしても。
「久しぶりに物を口にした気がする・・・」
さらにボトルを傾けながら言うイザークにディアッカは頷く。
「そうかもな。この何日か、イザークってば空気の抜けた風船みたいだったし」
自分が企てた気分転換が功を奏したことを知ってディアッカは嬉しそうだ。
「なんだ、その例えは」
ムッとしながらディアッカを睨むイザークは、けれどその表情は穏やかだった。
「あ、そーいえば、風船で思い出した」
ディアッカはごそごそと持ってきた荷物を漁る。中からビニル袋を取り出すと逆さまにして砂の上に中味をばら撒いた。そこにはカラフルなボールやらプラスチックやらのビーチグッズが山のようにあった。
⇒NEXT