「何だ?」
 自分を見るディアッカをいぶかしげにイザークは睨んだ。
「別に」
 その言葉にイザークが気を抜いた次の瞬間、ディアッカはイザークを強く突き飛ばした。
「うわっ・・・!」
 バシャン、という音とともにイザークは見事に水中にしりもちをついていた。
「何するんだ、お前っっ」
 両手を後ろについてディアッカを見上げながら、イザークはがなりたてる。それをディアッカは楽しそうに笑った。
「ここまで来たのに何もしないなんて意味ないからさ。イザークを海へご招待」
 見下ろすディアッカの視線の先で、イザークはほぼ胸から下の全てを海水に洗われていた。
「招待って、お前な!!」
 があぁっ、と起き上がろうとするイザークに向けてディアッカは思い切り海水を掬いあげてぶっかけた。
「・・・ぷっ、おまっ・・・」
「あははは、イザークまぬけすぎ!」
 座り込んで頭から海水を被ったイザークは全身ずぶ濡れになって、まるでへたり込んでいるように見える。
「くっそ、よくもやったな!!」
 言うなりイザークは勢いよく立ち上がり、自分がされたのと同じように水を両手で持ち上げてディアッカへ浴びせた。
「ぅわっ・・・」
 隙を突かれたディアッカはまともに海水を浴びる。
「ふん、調子に乗るからだ」
 腕を組んでふんぞり返るイザークにディアッカは濡れた髪を書き上げながら苦笑する。
「ずぶ濡れの人が言っても全然偉そうじゃないんだけど」
「何だとぉーっ」
 とたんに切れかけるイザークにディアッカはその場から逃げだした。
「あ、待て、ディアッカ!!」
 バシャバシャと波を撒き散らしながら、二人は海の中を駆け回る。
「待てって言われて待つ奴がいるかよ」
 打ち寄せる波に構わずに二人はまるで子供のようにはしゃいでいた。いつの間にかイザークもさっきまでの不機嫌な顔が嘘みたいにキラキラと目を輝かせて無邪気に初めての海を楽しんでいる。
「おい、止まれっ」
 走りながらイザークは叫ぶ。
「やなこった!」
 振り返りながらディアッカは濡れた砂の上を全力で走る。


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