「別に、止めてもいいんだよな、あれ?」
ディアッカは級友にそう確かめた。聞かれたほうは驚きながらも「あぁ」と頷く。するとディアッカは人ごみを掻き分けて騒ぎの中心に足を踏み入れた。
「ねぇ、もういいんじゃない?」
軽い口調でそういう声が届いて、さらに乗りかかって殴ろうとしていたイザーク・ジュールは手を止めた。声のした方を向いてみれば、褐色の肌に金髪の少年、が立っている。
「なんだ、お前は」
明らかにむっとしながらイザーク・ジュールは言う。
「オレ? オレはディアッカ・エルスマンっていうんだけど。もういいでしょ、そいつ充分痛い目見てると思うんだけど?」
ちゃらちゃらとした口調で言われて手を落としながら、イザーク・ジュールはディアッカを睨んだ。
「それとも病院まで送らないと気がすまない、とか?」
わざと煽るような言い方をして腕を組むとディアッカはイザーク・ジュールを見た。一瞬、その顔に何か違和感を覚えたが原因はわからない。それよりも悔しそうな顔をしているのが面白いと思ってしまう。
「なんだと?!」
「違うんなら、もうやめなよ。あんただってそんなところで無駄に体力使ったって何の得にもならないでしょ。それがわからないバカじゃないだろうし」
ディアッカの言葉に周りの人間はハラハラと事態を見守った。少なくともあのイザーク・ジュールがそんなことを言われて大人しく引き下がるようなやつではないのは周知の事実だ。そして、そのイザーク・ジュールに敵う奴なんて誰もいないというのはすでに常識だったから、このままではディアッカがやられるのは時間の問題だ、と誰もが思っていた。
「貴様っ」
イザーク・ジュールはそう叫ぶと、襟首を掴んでいたチャウ・メイを放り出して立ち上がりざまにディアッカに向けて拳を見舞った。それは、鋭く切れる一発で、今まで誰も避けられたことがない必殺の一撃だった。
7
⇒NEXT