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その週は何度か屋上へ行ったがイザーク・ジュールに会うことはなかった。本当なら毎日でも行きたかったのだが、いつまでも昼飯の誘いを断り続けるわけにもいかず、エリート組と中間層とアンチエリート組のそれぞれと一度ずつ席を一緒にすることになった。おかげで3日間は昼休みを屋上以外で過ごすことになり、ディアッカとしては不本意な時間を過ごしていた。
ようやくお付き合いも終わったという日は天候が雨で屋上に上がることはできなかった。まさか、傘を差しながら過ごすこともないだろうと、ディアッカは売店で買ったパンを教室で食べて終わらせることになった。
「おい、次の授業、移動だぜ」
なんとなくつるむ相手になった級友がそう言ってきてディアッカは席を立った。転校してから1週間でまだ利用していない教室も多い。その級友を案内にするには一緒に出るしかない、とディアッカは必要な教材を手にそいつに付いて廊下に出て行く。
すると、なにやら奥の方から怒鳴り声が聞こえてきた。
「おい、何だよ、あれ」
ディアッカがはるか遠くを眺めながら隣を歩いている級友に尋ねる。
「あぁ、またイザーク・ジュールだな」
「イザーク・ジュール?」
思いもしなかった名前にディアッカは聞き返した。
「あいつよくやるんだよ・・・、今度は何が原因なんだろうな」
そういいながら二人はその騒ぎの元へと近づいていった。
「なぁ、今度は何が原因?」
級友は幾重にも出来上がった野次馬のなかの一人に確かめた。
「さっきの体育の授業、ラウンドボールでチャウ・メイがばれないように反則したんだよ。それにイザーク・ジュールが気づいてさ・・・」
そう言って尋ねられた人物は肩をすくめる。話の内容に納得したように級友は頷いた。
「それじゃ、止まんないね、あれは」
「あぁ、あのままじゃ、チャウ・メイのやつ病院送りだな・・・」
ディアッカの前で二人はそんな会話をしている。不思議に思ってディアッカがそいつらに聞いた。
「なんで誰も止めないわけ?」
病院送りなんて穏やかじゃないことを言いながら、山のような野次馬の誰一人として止めようとしないのだ。
「止められる奴なんていないからだよ。下手に割り込めば自分が病院に担ぎ込まれる羽目になるからさ」
「誰も止められないっての?」
驚きながらディアッカはもう一度聞く。
「あぁ、イザーク・ジュールが優秀なのは勉強だけじゃないから。アイツの身体能力は化け物みたいなもんだから」
この学校の中だけではなく、コーディネーターとしても超一流だ、と二人は言って騒ぎの中心に視線を向けた。
ディアッカはふぅん、と思いながら同じようにやられている奴を見た。もうすでにかなりボコボコにされているのは見た目にも明らかだった。
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